勝てるピッチャーの条件

 しかし大野さんの意見は異なるものだった。大野さん曰く「投手は四球を出すことより、打たれることの方がイヤ。投手にしかわからない感覚がある」と。そこで野手出身の僕はピッチャーとのメンタリティの違いについて考えさせられることになる。

 確かに投手は野手と違う感性を持つのだろうが、“勝てるピッチャー”というのは独自の思考法を備えているものだ。以前、名球会で金田正一さんとお会いしたとき「イヤなバッターとかおられました?」と質問したことがある。

 すると「俺だって神様じゃないから、こいつイヤだなってバッターはいるよ」と返ってきた。「そういうときはどうしたんですか?」と訊くと、ニヤッと笑って「勝負したフリをしてそいつは避けて、次の絶対抑えなければいけないヤツを抑えるんだよ」とおっしゃられた。

 また、選手時代にクロ(黒田博樹)が突然勝ち始めたときがあった。それまで150キロを出しても打たれていたのに。「何かコツでも摑んだのか?」と訊いたら「打たれることを受け入れたんですよ」と。全力で投げても打たれるときは打たれるし、力を抜いて投げても抑えられるときは抑えられる。ただ、意識したのは下位は絶対に抑えるということ。そしてランナーを出したら、いかにゲッツーをとるかを考えたという。

 つまり勝てるピッチャーに共通するのは、良い意味で自分のプライドを捨てて、勝負に徹することができるところなのだ。きれいに抑えようとするのではなく、要所を確実に抑える。確かにピッチャーにとって打たれることは屈辱だろうが、そこにこだわるあまり四球を連発して試合を壊してしまうようでは独り相撲と言われても仕方がない。