完璧を目指すには無理がある

 プレイヤーとして完璧を目指すことは理解できる。ピッチャーならば27人ひとりも塁に出さずに試合を終わらせたいし、打者であれば全打席で安打を放ちたいと思うものだ。しかし完璧を目指すには無理がある。

 一方で野球というスポーツには、相手よりも1点多く取れば勝ち、相手よりも1点少なく抑えれば勝ち、という現実的な側面もある。ピッチャーでも野手でも“美学”という言葉を使う人がいるが、チームとして勝っていくためにはそのプライドを犠牲にしなければならないときもあるはずだ。

 たとえば僕は選手時代、試合前にまず思うのは「今日は何本ヒットを打ってやろう」ということではなかった。常に「まずはエラーだけはしないように」という気持ちでグラウンドに入った。それは内野手の感覚なのかもしれないが、その上でヒットが打てた、打点を稼いだ、ホームランが出た、チームが勝ったというご褒美がついてくるという意識で試合に臨んでいた。

 つまり基本にあるのはあくまでも「チームに迷惑をかけない」ということ。それを踏まえた上で何が上乗せできるか、と考えるのが僕の思考法なのである。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。