開幕ダッシュに成功したカープ。シーズン前の下馬評を覆すチームの根幹は、「スカウティング」と「育成」であろう。即戦力ルーキーが躍動し、叩き上げの下位指名選手も力強い全力プレーを見せる。

 そんなカープの「スカウティング」について、3月30日に発売された新刊『眼力 カープスカウト 時代を貫く惚れる力』(サンフィールド)の著者である坂上俊次氏(中国放送)が、“流しのブルペンキャッチャー”としてドラフト候補選手の球を受けながら取材するスポーツジャーナリスト安倍昌彦氏とカープドラフト、スカウトについて対談を展開した。

 連載2回目の今回は、カープの3年目捕手・石原貴規選手にまつわる話題をお送りする。

プロ3年目となる2022年シーズン、さらなる飛躍が期待される石原貴規選手。

◆二塁送球の速さよりも確実な送球

坂上「今回『眼力』という書籍でも書かせていただいたのですが、カープの鞘師智也スカウトが、天理大から石原貴規選手を獲得(2019年ドラフト5位)した時のお話しが印象的でした。捕球から二塁に投げるまでのタイムは、そんなに早くなかったそうです。逆にタイムを速く出そうと思ったら早めに捕球して、投球に入ってしまえばタイムは出るんだと。そうではなく、『きっちり捕球して、きっちり投げてアウトにする』というプレーを評価したと聞いて、一概に数字だけじゃ言えないと感じました」

安倍「数字で選手を評価するというのは、スピードガンの球速から始まったことだと思います。数字はその選手の能力の一面を表してくれますが、逆に大事な部分を隠してしまうということもあると思います。僕は元々キャッチャーですから、例えば二塁送球到達が、1.89秒ですごい強肩とか出てくると、その1.89秒はストライクになったのか? ということが気になります」

坂上「本当にそうですね」

安倍「キャッチャーはまず、二塁までの送球を二塁ベースの上に、ポンっと球を置けるかどうかというのが能力のスタートですから」

坂上「石原貴規選手はまさに『そうだ』と言っていましたね。タッチするところに、スッと球が来る。秒数ではなく、“結果アウト”になっているということだそうです」

安倍「多少時間がかかって、タッチのタイミングが同時、または一瞬遅いかなと思っても、ベースの上にポンっと投げると審判はアウトと言いたくなるものです。野球は、機械ではなく、人間がジャッジします。人間がジャッジするという心理を理解した上でプレーすることは、その選手にセンスがあるかどうかだと思いますね」

坂上「安倍さんとお話しをしていると、スカウト目線がなぜ面白いのかというのが少し分かった気がします。僕らがプロ野球を見る時は、データ、数字など、前情報がたくさんあります。僕らからすると、先入観もあります。スカウトの方々がグラウンドに行って、“どんな選手がいるかな?”と見る時は、先入観がないので、純粋に良いところが「すごいな」と思えたり、野球本来の喜びがスカウト目線で蘇ってくような気がするんですよね」

安倍「本当に良い選手というのは、探さなくても、向こうの方からこっちの目に飛び込んで来るんです。『あれ誰⁉︎』というサプライズというか、パッションというかピンとくる瞬間があるんです。坂上さんが言うように、なんの先入観もなし、材料もなしで、真っ白の状態で、何十人も練習しているグラウンドを眺めた時に、向こうからこちらの目に飛び込んで来る選手がいるかいないかです」
(第3回に続く)

対談を行った安倍昌彦氏(写真右)と坂上俊次氏(写真左)