昨年、先発として好投するも、勝ち星がつかなかった約3カ月間の姿。プロ1年目から先発ローテを守り、結果を残し続ける理由。そして素顔ー。この連載では、右腕を間近で見続けたキーマンが回想する、森下暢仁の進化の秘密に迫る。

【キーマンが明かす秘話・横山竜士一軍投手コーチ(後編)】

カープ・森下暢仁(今季の春季キャンプで撮影)

 今季チーム初の完投勝利を達成するなど、3年目の今シーズンも安定感溢れる投球を続ける森下暢仁。カープの次期エースへ、周囲の期待は高まるばかりだ。右腕の進化の裏側を投手コーチに聞いた。

◆精神的に辛い時期を乗り越えたその過程が森下を一回り大きくした

前編から続く)「疲労も蓄積していましたし、自分の投球スタイルを見失いかけているように感じました。投手コーチとして、何かを背負わせているつもりはなかったのですが、森下自身も〝勝利〟を渇望していましたし、チームが勝てない責任も感じていたはずですから、精神的に辛い時期だったと思いますね。本人に直接『悲壮感を出すのはやめよう』と声をかけたのは覚えています。ただ、どんなに優れた投手でも悪い時はありますから、あまり騒ぎ立てないようにはしました。勝てない時期を乗り越えたことで、また一つ精神的に強くなったのではないかと思います」

 同じ結果は繰り返さない。オフにはエース・大瀬良大地の自主トレに参加し、自らを徹底的に追い込んだ。横山は、春季キャンプで見た森下の姿に〝確かな成長〟を感じたという。

「キャンプ序盤の動きが、これまでの2年間とは全く違うものでした。思い通りに勝てなかった悔しさを味わったことが、自分を追い込むという鍛錬につながったのではないでしょうか。また、(大瀬良)大地に頼み、厳しい練習に取り組んだということは、〝いつかは自分がエースとしてチームを背負って立つんだ〟という自覚やビジョンを持っているのだろうと思いますね」

 森下がエースになるために必要な条件はなにか。現役時代、数々のエースの姿を見てきた横山に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「エースと呼ばれた黒田(博樹)さんやマエケン(前田健太)にしても、それぞれ全く違うタイプの投手でした。大地も含めて、〝カープのエース〟の共通点があるとすると、やはり『周りから信頼されているかどうか』ではないでしょうか。そのためには、自らの投球でチームを勝利に導かないといけませんし、結果を残しチームメートに認めてもらわないといけません」

 今季はエース・大瀬良の次に先発を託されるローテが組まれた。森下は、大瀬良の背中を見て先発のマウンドに上がることになる。

「森下の場合は、1年を通して先発で投げてくれれば、数字はついてくるのではないかと思います。コーチとしては、最後まで無事に先発ローテを守って投げてくれたらそれで十分なのですが、森下は今年、防御率のタイトルを獲りたいと言っていました。その目標に向かって、どれだけ自分が理想とする投球ができるか。森下のさらなる成長に期待したいです」

 苦しい時期を乗り越えて迎えた森下の3年目は、次期エースとしての働きとともに、タイトル奪取も期待されるシーズンとなる。 

横山竜士(よこやま・りゅうじ)一軍投手コーチ
1976年6月11日生、福井県出身。1994年ドラフト5位でカープに入団。主にセットアッパーとして活躍し、2013年には通算500試合登板を達成。2014年に現役引退。野球解説者を経て、2020年から一軍投手コーチに就任した。通算成績は46勝44敗110ホールド17セーブ。