昨年、先発として好投するも、勝ち星がつかなかった約3カ月間の姿。プロ1年目から先発ローテを守り、結果を残し続ける理由。そして素顔ー。この連載では、右腕を間近で見続けたキーマンが回想する、森下暢仁の進化の秘密に迫る。

【キーマンが明かす秘話・横山竜士一軍投手コーチ(前編)】

カープ・森下暢仁(今季の春季キャンプで撮影)

 今季チーム初の完投勝利を達成するなど、3年目の今シーズンも安定感溢れる投球を続ける森下暢仁。カープの次期エースへ、周囲の期待は高まるばかりだ。右腕の進化の裏側を投手コーチに聞いた。

◆投手コーチが感じた3年目での大きな成長点

 横山竜士が一軍投手コーチに就任した2020年は、森下暢仁のルーキーイヤー。横山は、森下のプロ野球選手としての成長を、投手コーチとして一軍で見守り続けてきた。

「森下は1年目から良い球を投げていましたし、年々、球のレベルが上がっています。特に3年目の今年は、スピードガン以上の球速を感じる球を投げている印象がありますね。なによりもストレートの強さが増しています。ストレートが良いので、他の球種も活きています」

 森下が試合で投じる主な球種は、ストレート、カットボール、カーブ、チェンジアップ。どの球種も勝負球として使える質の高さが特徴だが、横山は、森下の調子のバロメーターとなるのはストレートだと断言する。

「カーブやチェンジアップなどを交えた緩急のある投球で打者と駆け引きができる投手なので、そのためにも、まずはストレートで打者を〝押せる〟かどうかが重要になってきます。特にポイントになるのはインコースへのストレート。懐に投げ切ることができて、打者がポップフライを打ち上げる投球ができていれば、その試合は安心して見ていられます」

 ルーキーイヤーから先発ローテに定着し、1年目はチーム2位の122.2回、2年目はチームトップの163.1回を投げ抜き、先発としての〝安定感〟を示す数値となるQS(クオリティスタート)は、2020年が18試合のうち14回、2021年が24試合のうち19回と素晴らしい成績を残している。しかし、森下には一つ大きな課題があったと横山は話す。

「1年目から立ち上がりが苦手で、序盤に球数を要してしまうことが何度もありました。2年目もその課題がありましたが、今年のオープン戦では非常に良い立ち上がりを見せてくれました。シーズンに入ってからもそれは続いています。うまく試合に入れるようになった点は、非常に大きな成長だと思いますね。森下クラスの投手が、さらに一歩、二歩と階段を上がるのは大変なことでしょうが、課題と向き合い、クリアしていけるのは森下のすごさだと思います」

 課題と向き合った理由の一つには、昨年、約3カ月間、勝ち星に巡りあえない期間があったからかもしれない。良い投球をしても勝てない、この頃の森下は悲壮感を漂わせていたという。(続く)

横山竜士(よこやま・りゅうじ)一軍投手コーチ
1976年6月11日生、福井県出身。1994年ドラフト5位でカープに入団。主にセットアッパーとして活躍し、2013年には通算500試合登板を達成。2014年に現役引退。野球解説者を経て、2020年から一軍投手コーチに就任した。通算成績は46勝44敗110ホールド17セーブ。