昨年、先発として好投するも、勝ち星がつかなかった約3カ月間の姿。プロ1年目から先発ローテを守り、結果を残し続ける理由。そして素顔ー。この連載では、右腕を間近で見続けたキーマンが回想する、森下暢仁の進化の秘密に迫る。

【キーマンが明かす秘話・善波達也(後編)】

カープ・森下暢仁(今季春季キャンプで撮影)

 森下暢仁を語る上で、欠かせない人物と言われる善波達也氏。森下の才能を見出した恩師だ。なぜ森下は周囲の期待に応え続けることができるのか。恩師が語る、森下暢仁の魅力とは。

◆大瀬良との自主トレがもたらす進化。向上心を忘れないことが暢仁の強さ

 (前編から続く)森下はプロ1年目から先発ローテに定着。10勝をあげ防御率は1点台。安定感抜群の投球が評価され新人王を獲得した。2年目も先発の柱として活躍し、東京五輪では決勝戦で先発するなど、悲願の金メダル獲得に貢献した。しかし、7月から約3カ月間、白星がつかない日々が続いた。その時の森下の姿を善波はこう語る。

「暢仁の投球とチームの状態が噛み合っていない印象でした。ただ、それは〝プロの投手であれば誰もが通る道〟だと思って見ていました。最近は6回を3失点以内に抑えたら先発の役目を果たしたと言われることも多いですが、それはあくまでも目安の数字。真のエースになるには、味方が点をとってくれるまで持ち堪える。点をとってくれたら、それ以上に失点しない我慢の投球が求められます。今のカープにはクローザーに栗林(良吏)投手がいるので、今年は、昨年の経験を糧にして、いかに栗林投手につなぐか、試合の流れを含めて考えられる投手に成長してほしいと思っています。そういう部分を身につけるために、オフには大瀬良投手の自主トレに参加したのではないでしょうか」

 昨年の春、善波に話を聞いた時、「向上心を忘れずにやれば、暢仁に2年目のジンクスという言葉は必要ないと思います」と返ってきた。大学時代と同じように、向上心を持って野球に取り組む森下が、大瀬良の影響を受けることで投手として飛躍を遂げる可能性は高い。

「3年目の今年は、カープのエースである大瀬良投手と並び、暢仁自身も、周りからエースと呼んでもらえるような投球をしないといけないでしょう。尊敬する先輩、可愛がってもらえる関係性とは別に、〝俺がこのチームで一番なんだ〟〝俺がセ・リーグを代表する投手なんだ〟という強い気持ちを持つことも大切になってくると思います。1年目は新人王を獲るという目標があったでしょうし、昨年は2年目のジンクスなんか関係ないという気持ちがあったはずです。今年期待したいのはタイトル。昨年の柳裕也(中日・明治大)のように、投手タイトルを複数獲得するような活躍を期待したいですね」

 3年目にどんな成績を残すか、シーズンが終わってみないと分からない。ただ、高校から森下の姿を見てきた善波には、さらなる成長を果たす森下の姿が見えているようにも感じる。

「私からすると、外見は少し頼りなさそうに見えますが(笑)、ユニホームを着てプレーすると、こちらの期待値を大幅に超えるものをみせてくれます。頼りなさをどーんと超えてチームになくてはならない存在になる。それが暢仁の魅力ですから。ファンの方の期待に応え続け、愛される選手になってほしいですね」

善波達也(よしなみ・たつや)
明治大で野球を続け、卒業後は社会人野球でプレー。2004年に明治大コーチ、2008年に明治大監督に就任。在任中はチームを合計9回、東京六大学リーグ戦の優勝に導いた。2019年限りで明治大監督を退任。