10月22日、悲願のルヴァンカップ優勝を決めたサンフレッチェ広島。16日の天皇杯では苦汁を嘗めていただけに、アディショナルタイム終了間際の劇的勝利にサポーターは沸いた。

 ここでは、広島OB・吉田安孝氏が、カップ戦決勝前夜となる2022年9月上旬からのサンフレッチェを振り返りながら、チームの強さの秘密を独自の視点で分析する。

 今季、広島の真骨頂となった『ハイプレス』を支えているものとは……?
(データは全て10月6日の取材時点)

天皇杯準決勝となった10月5日、京都戦。決勝進出を決め森島司と肩を組む大迫(写真・右)

◆戦術を支える選手同士の『信頼感』

 さっそく、今回も素晴らしい試合が続いた10月5日までのサンフレッチェの戦いぶりを振り返っていきましょう。

 まず注目したいのは、10月1日の浦和戦(◯4ー1)です。この試合はボールも握れ、前線からのプレスもはまり、攻撃面でも守備面でも相手に何もさせなかったという、まさに理想通りの完璧な試合でした。浦和と対戦するのは5月13日以来でしたが、前回は0ー0のスコアレスドロー。それから半年経った今、広島の方がより成熟したサッカーができるようになってきたということを証明した、見事な試合だったのではないかと思います。結果的には4得点をあげる快勝でしたが、GK・大迫敬介が随所で見せたビッグセーブが、チームの失点を防いだことも非常に大きかったと思います。

 大迫はチームの守護神として守備面への貢献度が高い選手ですが、勝利への貢献度が非常に高い選手でもあります。味方からすれば、一番後ろに大迫がいるというのは大きな安心感があるはずです。GKと相手選手が1対1になっても安心できるからこそ、佐々木翔、荒木隼人、塩谷司ら3バックが、勇気を持ってディフェンスラインを押し上げることができているのでしょう。

 当然、ラインをあげれば、相手にプレスをかけやすくなる反面、DFとGKの間のスペースが空いてしまいます。相手に背後を取られ、空いたスペースに走り込まれるリスクもありますが、それでも勇気を持ってラインを押し上げることができているのは、大迫の守備範囲の広さ、シュートブロック、体を張ったスーパーセーブがあるからこそでしょう。

 今のサンフレッチェのスタイルは、『ハイプレス』と呼ばれる戦術です。この戦術では前線からの守備が目立ちがちですが、それを引き出しているのは、他でもないGKの存在です。攻撃を担うトップの選手やシャドーの選手が前に行くことができるのは、その後ろのボランチの選手がしっかり上がってきているからです。ボランチの選手がしっかり上がっていけるのは、守備の要である3バックがしっかりしているから。そして、3バックが勇気を持ってラインを上げていけるのは、GKの大迫が守ってくれると信じているから……。そうした信頼感と一体感が、チーム全員で勇気を持った果敢なプレーができている要因なのではないでしょうか。

 出場機会を大きく増やしている川村拓夢は、9月も素晴らしい活躍を見せてくれました。シーズン序盤はケガの影響もあり出場機会に恵まれませんでしたが、夏場以降、与えられたチャンスをしっかりつかみ取ったのは非常に大きいと思います。まだまだ伸び代のある選手ですし、本人も「サンフレッチェのレジェンドになりたい」と話していましたが、そうなれる素質も十分にあります。何より、川村のひたむきに取り組む姿勢は、見ていてグッとくるものがありますよね。

 ここまでのサンフレッチェは、選手1人ひとりの名前をあげて褒めていきたいほど、どの選手も本当に活躍してくれています。荒木も、天皇杯・準決勝で「これぞストッパー」といえるプレーを見せてくれました。野上結貴にしても、出場機会に恵まれない時期もある中、チャンスを与えられれば最高のパフォーマンスを発揮してくれています。野上のようなレベルの選手がベンチにいるということは、他のチームではなかなか考えられないことです。力のある選手がベンチを温めているという状況にも、今の広島の選手層の厚さを感じることができますね。