Jリーグ・2022シーズンが幕を閉じた。前年のリーグ11位から大きく順位を押し上げ、リーグ3位、天皇杯準優勝、ルヴァン杯優勝と輝かしい成績を収めたサンフレッチェ広島。来シーズンもスキッベ監督の続投も決まり、早くも来シーズンへの期待が高まっている。

 ここでは、広島OB・吉田安孝氏が、多くの感動を生んだ2023年サンフレッチェ広島の戦いを振り返る。

 天皇杯、ルヴァン杯、そしてリーグ戦を戦い抜き、見事に歴史を塗り替えてみせた紫の戦士たち。吉田氏が語る、躍進の秘密とは……。
(データは全て11月9日の取材時点)

チームのみならず、サポーターにも声を掛け国立競技場を盛り上げた青山敏弘(写真は試合中のピッチサイドの様子)

◆悔し涙を乗り越えて、ついにつかんだカップ戦タイトル

 まずは、選手、クラブ関係者、そしてサポーターのみなさん、ルヴァン杯優勝おめでとうございます! ついに手にしたカップ戦タイトル。来シーズンはユニホームにも『4つの星』が刻まれることになりました。本当にうれしく、誇らしいことです。今回は、歴史が動いた2つの決勝戦を中心に振り返っていきましょう。

 2冠を目指して天皇杯の決勝戦に臨んだサンフレッチェでしたが、万全の広島対策を敷いてきた甲府の前に、前半はほとんど何もできない状態でした。終始、甲府のペースで展開した試合でしたが、後半では広島のチャンスも徐々に増え、得点の匂いが感じられる場面も随所にありました。特に、延長28分にPKを獲得した時は、「よし!」と思ったサポーターも多かったのではないでしょうか。

 しかし結果は準優勝。目前で優勝を逃し、選手たちは非常に悔しい思いをしたはずです。ただ、その悔しさや苦しみを乗り越えてルヴァン杯で優勝できたということは、彼らにとって非常に大きな経験になったのではないでしょうか。失敗体験と成功体験、その両方を経験しながら個人もチームも成長していかなければならない中、天皇杯の敗戦は選手たちにとって明らかな失敗体験でした。

 しかし、ルヴァン杯で優勝を果たしたことで、天皇杯でのこの負けが、非常に“価値のある一敗”になったのではないかとも感じました。

 そうはいってもルヴァン杯に向けて気持ちを切り替えるのは、相当に難しかったのではないかと思います。後に話を聞くと、「切り替えなければいけないとわかっていても、どうしても引きずってしまった」という選手もいました。

 当然、選手はプロとして、「ルヴァン杯ではタイトルを獲るんだ」という強い思いを抱いていたでしょう。そしてそんな選手たちを後押ししたものの一つに、ルヴァン杯決勝前日に逝去した工藤壮人の存在もあったのではないかと思っています。両チームともに譲らないギリギリの試合の中、アディショナルタイムで劇的な勝利を収めることができたのは、もちろん選手たちの力によるものです。ただ、少なからずそうした見えないパワーも働いていたのではないかということを、感じずにはいられません。

 これまでクラブの30年の歴史の中で、痺れる試合というのはいくつもありました。その中でもこのルヴァン杯決勝戦は、トップ3に入るほど劇的な一戦だったといえるでしょう。

 天皇杯とルヴァン杯、いずれもカップ戦ではありますが、天皇杯には天皇杯らしい厳かさが、ルヴァン杯にはルヴァン杯らしい華やかな雰囲気があります。その両方のピッチに立てたことは選手としても非常に誇らしいことだったと思いますし、決勝戦に駆けつけた多くのサンフレッチェサポーターもまた、この景色を見せてくれたクラブ、決勝戦に連れてきてくれた選手たちに感謝していたのではないでしょうか。

 ルヴァン杯決勝の後半では、C大阪のマテイ・ヨニッチの退場で数的有利にはなりましたが、そういう展開では得てして相手の守りが固くなり、攻めあぐねるというケースがよく見られます。そんな中でも粘り強く戦うことができたのは、今年のサンフレッチェらしさだと思いますし、セットプレーからPKのチャンスを獲得した点や、決勝点となったソティリウのゴールが生まれたのもCKからだったという点を見ても、セットプレーが、広島の大きな武器の一つになってきたと感じます。