15年間の現役生活を終え、2022年限りでユニホームを脱ぐ決断を下したカープ安部友裕。“覇気”を代名詞に25年ぶりのリーグ優勝、3連覇に大きく貢献した男が、改めて自らのプロ野球人生と、感謝を語る。

入団当時の背番号は60。2018年からは、梵英心らも背負った6に変更となった。

◆『野球をやってきて良かった』と感じた、25年ぶりのリーグ優勝

15年間の現役生活を振り返り、忘れられない試合・シーンはありますか?

「2016年の日本ハムとの日本シリーズでですね。前年の2015年は『もうクビになるんじゃないか……』という気持ちがある中でプレーをしていました。そういう状況から、2016年レギュラーシーズンは試合に出ることができて、リーグ優勝も経験して、日本シリーズにスタメンで出れるまでになっていて……。全てが報われるわけではないのですが、日本シリーズに出場していたときに『辞めなくて良かった』という喜びがありました」

─2015年の一軍出場が26試合というところから、翌年115試合に出場されて、優勝の瞬間は三塁を守っていましたね。

「黒田(博樹)さんが投げて、僕がスタメンで出ていて『(優勝が決まる試合で)黒田さんが投げてるよ……』という感じでしたね。もちろんシーズン中も守ってはいたのですが、節目の日に黒田さんがマウンドにいて、そこで優勝を決めて……本当にうれしかったですよね。優勝したときに裏方さんに『ありがとう』と言っていただいたのは、忘れられないシーンです。そのときに『野球をやってきて良かった』と素直に思いました」

─野球人生の中でターニングポイントとなる出来事などはありましたか?

「2015年のシーズンの、ある試合(10月2日対中日戦・マツダスタジアム)が僕にとってのターニングポイントですね。1死満塁で、ショートゴロを打ってしまい、チャンスで打てなかった場面がありました。その当日、当時の緒方(孝市)監督から『ここがお前のターニングポイントだ』と言われたんです。そのとき、僕のなかで“これだ”と感じるものがあって、プロ野球選手として自分が変わるきっかけになりましたね」

─プロ入りから一軍に定着するまで、悪戦苦闘される時期もありました。今振り返ってみていかがでしょうか?

「全く無駄な時間・期間ではなく、僕にとって必要な時間だったと思います。あのときはあのときなりに、自分で一生懸命取り組んでいたし、それが自分が選んで取り組んだ日々だったので、後悔もないですし、あの時間が必要だったと思います」

─飛躍するにあたり、影響を受けた指導者はおられるのでしょうか?

「僕をさらに成長させてくれたのが、石井琢朗さん(現DeNAコーチ)でした。キャンプからミーティングを重ねて、どういう気持ちで打席に立つのか、意味のある凡打を打っていこうなど、徹底的にチームに“自己犠牲”という意識を浸透させて『チームに了承を得ているからどんどんやろう』と言われていたんです。そういうこともあり、僕の中で石井琢朗さんのような指導者になりたいと思った大きな転機でもありました」

─2016年からは主力として3連覇を経験されました。ご自身の中でどのような意味がありましたか?

「やはりカープの長い歴史の中で、25年ぶりに優勝できたということ、自分が主力だとか関係なく、やはりあそこに携われたということは、経験しないと分からない、やった人にしか分からないことだと思います。僕自身の野球人生の中で2016年までは優勝に縁がなくて、初めての経験で、“大きな財産”という言葉だけでは片付けられないですし、本当に生きてて良かったと思いますね」

─15年間プレーされてきたカープは安部選手にとってどんな球団でしたか?

「高校卒業から入団して、僕を育ててくれて、これまで培ってきたものが、これからの社会人生活の礎になっていくと思います。自分の人生の中で本当に幸せな時間でした。いろんな紆余曲折、山あり谷ありのプロ野球人生でしたが、これが僕の野球人生だったんだと思います。本当に良い15年間でした」

─今後はどのような活動をされるのでしょうか?

「野球アカデミーをつくり、指導者になりたいと思っています。現在、少子化になってきて野球人口も減っているのですが、サッカーをやっている人口は徐々に増えているんですよね。野球ができる環境を整えるなど、野球を通しての活動をもっと広げていきたいと思っています。広島で15年間応援してもらって、広島に育ててもらって、広島は僕にとって第二の故郷であり、広島の地を離れる選択肢はありませんでした。ですので、これまでいただいた恩を広島で還元したいと思っています」

─多くのカープファンの方が、今後の活躍を期待されていると思います。カープファンのみなさんへコメントをお願いします。

「15年間、本当にたくさん応援をしていただいて、育てていただいて、球場を真っ赤に染めていただいて感謝しかありません。ここ数年はコロナの影響もありいろいろと難しいところもありますが、いつもどの球場に行ってもカープファンのみなさんでいっぱいでしたし、本当に幸せな時間でした。これからは、ファンの方々といろんな交流を通して、恩返しをしたいと思っています。また引き続き、いろいろなところでお会いするかもしれません。球場では距離があったのですが、これからはもっと近い距離で交流できると思いますので、これからもよろしくお願いします」

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