◆自分の身を捧げるマインド
米大リーグ・ドジャースへ移籍した黒田は、メジャーのマウンドでも先発として活躍。2012年には名門・ヤンキースへ移籍し、2球団を跨いで自己最多の5年連続二桁勝利を記録するなど、メジャー7年間で積み上げた勝ち星は79勝。広島のエースは世界の黒田となった。
そして2014年12月、メジャーからの高額オファーを蹴ってカープ復帰を決断。全国のファンを驚かせた。黒田の登板日には、連日大勢のカープファンがスタンドを埋めていた。
「それだけたくさんのファンの人に迎えられてマウンドに上がるということは、本当に幸せなことだなと自分でも思いました。実際そのマウンドに上がって、球場の雰囲気を味わうことができて、本当に帰ってきて良かったなと思いましたね」
黒田復帰に沸いた2015年はファンが夢見た前田健太とのダブルエースがついに実現。優勝への機運は最高潮に高まった。黒田は11勝、前田は15勝と期待通りの活躍もチームは4位に沈む。オフには若きエース・前田がメジャーへ移籍。しかし黒田は元エースとしてこの事実をプラスに捉えていた。
「マエケン(前田健太)がいなくなるということは、絶対的エースがいなくなったということ。逆にその危機感から投手陣、チームが良い意味で一つになれたと思います」
プロ20年目、現役最後のシーズンとなった2016年は、満身創痍の体ながらも快進撃を続けるチームを支えた。精神的支柱として投げ続ける姿は、復帰2年目にしてさらに若手投手陣へ好影響を与え、チームの勢いは衰えることなく優勝へ突き進んだ。そしてマジック1で迎えた9月10日、東京ドームでの巨人戦で黒田は先発登板。気迫の投球で流れを引き寄せ、黒田はついにカープに優勝をもたらした。低迷期に投げ続けた黒田にとってはプロ入り初優勝。歓喜の輪の中で盟友・新井貴浩と抱き合い、男泣きした。
「日本での優勝はそれまで経験がなく、現役最後に初優勝ということで『これが優勝なんだ』という気持ちがありました。特に僕はカープでなかなか勝てない時期を経験していますし、カープで優勝できたのは、すごく感慨深いものがありました」
現役引退後、黒田は自身が考えるエース像について、このように語っている。
「多少変化はしていきましたが、チームによって当然エースはいて、それぞれのチームでエース像は変わってくると思います。僕自身がずっと思っていたのが、『自分の身をこのチームに捧げられる』というマインドを持っている人がエースだと思います。当然たくさん勝つことも大事ですが、僕はそういうマインドの投手でありたいと思いましたし、そういう投手を目指していました」
低迷期から強い反骨心で完投を積み重ね続けてエースとなり、メジャーでも結果を出し続けた。黒田はその高いプロ意識と生き様を、身を以てカープの若手投手陣に示し続けてきた。黒田が残した魂は、今もなおカープの中に息づいている。