2022年4月10日、J1第8節の広島ー福岡戦。 サンフレッチェ広島の若手・東俊希が起用されたポジションは“ボランチ”だった。試合はおろか、練習でもしたことがない未経験のポジション。それでも堂々とピッチに立ち、試合終了間際の劇的ゴールを演出。その才能の片鱗を見つけた。

 そして現在、東はさまざまなポジションで起用され、結果を残し続けている。2024年のサンフレッチェ広島でカギを握るとされる、複数ポジションを担える選手たち。その1人として期待のかかる東俊希の言葉を、過去インタビューから振り返っていく。(「広島アスリートマガジン」2022年収録記事から再編集)

開幕戦でスタメン出場、ピッチ上で満田誠と言葉をかわす東。(2024年2月23日撮影)

◆あらゆるポジションをこなす万能型。初挑戦のボランチで劇的勝利を演出

ー(2022年)4月10日の福岡戦(〇1−0)で、柴﨑晃誠選手の劇的ゴールをアシストしました。あの試合を振り返っていかがですか。

 「あのゴールは、アディショナルタイムの終了間際でしたよね。僕はボランチで出場していて中央にいたのですが、左サイドのカシ(柏好文)くんが(佐々木)翔くんにパスを出してから中に入ったので、空いた左サイドに入ってボールをもらいました。そこからクロスを入れるというイメージは描けていたので、その通りにプレーはできたのですが、実はあの時、足がつっていたんです。ただ、『これが最後のワンプレーになる』と思っていましたし、とにかくここでゴールを決めてもらいたいという気持ちだけで、なんとかクロスを入れました」

ーエディオンスタジアムが興奮に包まれましたね。

「選手も含め、あの日あの場所にいたみんなが、ものすごく興奮していたと思います。あの1点がなければ、引き分けのまま終わっていました。あの試合で劇的な勝ち方ができたからこそ、今、チームにいい波がきているのだと思います」

ーたしかに、劇的な展開での勝利は、チームにとっても活力になると思います。

「福岡戦は、コロナで離脱したメンバーもいる中で、僕が急遽ボランチに入った試合でもありました。ボランチは練習でもプレーしたことのないポジションだったのですが、そうしたアクシデントがあっても勝てるということが証明できたので、選手のみんなも自信がついたと思います」

ー4月23日のルヴァンカップ徳島戦(〇4―0)でも、柏選手のゴールをアシストされました。

「あの場面は、森島司選手(現・名古屋)にパスを出してワンツーでもらったのですが、それが前に抜け出すいいボールでした。満田(誠)選手もすごく分かりやすい動き出しでこちらに上がって来てくれたので、迷わずパスを出したんです。満田選手のボールはGKに弾かれてしまいましたが、ゴール前に走り込んでいた柏選手がこぼれ球を決めてくれたので、良かったですね」

ーこれまではシャドーやサイドが主戦場でしたが、今シーズンはボランチ起用も増えています。どのポジションもこなせる点は、東選手の強みではないでしょうか。

「そうですね。選手全員が複数のポジションをプレーできるわけではないので、どのポジションにも対応できるのは、自分のストロングポイントだと思っています。シャドーでもボランチでも、やるべきことをしっかりと整理してプレーするようにしています」

ー器用なタイプなのでしょうか。

「監督やコーチに『吸収が早い』と言われることはありますね。昔から、サッカーの動画を観て研究していた成果かもしれません。ほかには、『何でもやっちゃう』という僕の性格的なものも起因しているのかもしれません。一つのポジションを突き詰めることも大切だと思いますし、どのポジションにもある程度対応できる柔軟性も大切です。何か一つでも自分らしい特徴を持っていたいと思っています」

ー特に手応えを感じるポジションは?

 「シャドーには、得点を上げられるポジションならではの面白さがありますし、ボランチには、真ん中でプレーする面白さがあり、それぞれで違う手応えを感じられます。特にボランチは最近始めたばかりのポジションですが、かなり手応えを感じています。周りとバランスを取りながら判断するプレーが多く、パスコースもいろいろな選択肢があるので楽しいですね。磐田戦で初めてタイシ(松本泰志)くんとボランチを組んだのですが、タイシくんはどんどん前に出ていくタイプなので、僕はバランスを取って、意識的に後ろに残るようにしていました。自分が主体となって動くことも大切ですが、ボランチでは、味方の動きを見て判断することも意識しています。あとは、左足のキックも僕のストロングポイントだと思っています」

ー巡ってきたチャンスをつかみ取り、しっかりと結果を出しているのは素晴らしいと思います。

「試合で使ってもらうには、チャンスが訪れたときに結果を残せるかどうかという点が大きいと思います。『今日はベンチスタートだ』と分かっている試合でも、途中から出場することをイメージして、常に準備をしてきました。チャンスを確実につかむためには、毎試合、“活躍する準備”をすることが大事だと感じています」