クラブ初の優勝に向け、強豪・琉球とのCSファイナルを目前に控えた広島ドラゴンフライズ。クラブ設立当初から所属し、『ミスター・ドラゴンフライズ』としてブースターに愛される朝山正悟は、今シーズン限りでの引退を発表している。クラブとともに歩んできたレジェンド・朝山が語る、バスケットボールへの思いとは。(収録は2023年4月、全3回/2回目)
◆全てを止めるシュートに僕は魅せられた
—3Pシュートというのは、ゲームの流れを変える一つのアクセントになるのではないかと感じます。
「バスケットボールにおいて3Pシュートというのは、本当に大きな役割を占める武器だと思います。ダンクシュートをはじめ、いろんなシュートがありますが、3Pシュートはこれからのバスケットボールにおいても、今よりも大きな意味を持つシュートになると考えています。オフェンスの組み立て方として本当に重要なシュートですね。
僕は3Pシューターとして約20年間プロの世界でやらせてもらっていますが、時代によって3Pシュートの打ち方はもちろん、捉え方や戦略での使われ方がバスケットボールの進化とともに変わってきています。でも、ただ一つ変わっていないことは、試合の流れを変える大きな一投になることですね。もう一つ花形のシュートとしてダンクシュートがありますが、あれは豪快さと一瞬でみんなを盛り上げる力があります。
一方の3Pの魅力は、まずシュートが描く綺麗な放物線があると思うんです。野球でいうと、打席からスタンドに入るまでの、ホームランの『あの間』ですよね。わぁー! ってみんなが言っている、あの間。バスケットで唯一、みんながあの間を味わえるシュートだと思うんです。
シュートを打つタイミング、高さ、シューターによって異なる放物線、そして会場にいる全員の時間を止めるような感覚。3Pを打った瞬間に会場のファン、両チームの選手全員の視線が一つのボールに集まって、シーンと静まりかえる長いようでとても短い時間。バスケットボールの中でも僕がとても好きな時間です。全員が常に動いているバスケットボールの中で、全てを止める。あれをなんと表現したらいいか。なんとも言えない時間ですよね」
—そんな全ての人が動きを止めてしまう、魅力的なシュートを磨き上げてきたプロセスを教えてください。
「今現在のようにインターネットやYou Tubeがあった時代ではないですから、ビデオが擦り切れるくらい何度もNBA選手のプレーを見返しました。マイケル・ジョーダンはもちろん、スラムダンクとかにも影響を受けましたしね。そこから自分が打つイメージをし、次にそれを真似して実践するんですよね。
それをとにかく何度も繰り返して。身長が2mを超えるような選手になれるわけがないから、当時の僕はアウトサイドからのシュートを打てる選手になりたいと思っていたんですが、3Pシューターになるっていうイメージは全くありませんでした」
—遠くから打ちたいという、憧れから入ったんですか?
「その通りです。高校までは3Pシュートなんて試合ではほとんど打ったことがありませんでした。大学に入ってから指導者の方に『お前は良いシューターになれる』と言われて、そこから勘違いしちゃって本格的にやり始めたんです。
でも子どもの時からダンクシュートよりも、3Pシュートのような、自分が打ったシュートが、放物線を描いてゴールに吸い込まれていく、あの時間が好きでした。だから、とにかくシュートを打ちまくりました。中学生くらいまでは体育館を使えないことも多かったので、電柱に向かって打って練習をしたりしていましたね。本当にずっと打っていました。とにかく自分の型を固めるというか、イメージしている通りに打てるようになるまで、それこそ手が腱鞘炎になるくらいずっと打ち続けていました」