アスレティックトレーナーという職業を知っているだろうか。選手のスポーツ中のケガを予防したり、コンディショニングや、選手がより良いパフォーマンスを発揮できるように“サポート”する“プロ”である。

 2020年、横浜DeNAベイスターズにそのアスレティックトレーナーとして入団した林優衣さんは、この春、「KOROMO Athletic Training」という施設を立ち上げる。今回はその活動の意義について迫る。

施設に置かれた、“一本下駄”などのトレーニング器具。

 思い浮かべてほしい。『日本の学校でケガをしたら……?』どうするか。まず保健室に行き、応急処置を行ったあとは、専門の病院に委ねられることが一般的ではないだろうか。

 しかし、アメリカなどでは、『アスレティックトレーナールーム』という施設が高校などにも設けられ、実際にアスレティックトレーナーが、ケガをした生徒と共に、競技復帰に向けリハビリを行うのだ。

 プロ野球・横浜DeNAベイスターズや、Bリーグ・茨城ロボッツなどでアスレティックトレーナー、S&Cコーチとして活動した林優衣さんは、自身のアメリカでの経験を活かし、『アスレティックトレーナールーム』を日本にも設置したいという思いで新たな活動を始めた。

 中央線三鷹駅から直進すること約10分。ビルの一室に「KOROMO Athletic Training」という、学生から社会人までの幅広い世代が、専門家の指導を受けながらトレーニングや、医療従事者(鍼灸あんまマッサージ師)による専門的なケアを受けることが可能な施設を立ち上げる。

 施設内を覗くと、パワーラックなどのウエイトトレーニング器具があるところは一般的なジムと似ているが、随所に「感覚的で探求心が強い」と自称する林さんのこだわりが感じられる。

 例えば、屋内でランニングやウォーキングなどを行う為の器具“トレッドミル”は電動式ではなく自走式で、地面(ベルト部分)をバランス良く蹴り、走らなければ進むことが出来ず、自然と正しい身体操作を得られる仕組みとなっている。これは、ケガをしたあとによく起こる、“左右差”が大きくなった体の矯正に効果があるという。

 他にも、山本由伸投手(ドジャース)が使用して話題になった、やり投げの練習器具『ターボジャブ』が投球動作の習得のために用意され、体の前後のバランスを改善するために採用したという日本人ならではの『一本下駄』が用意されていたりなど、柔軟な発想が溢れ、見ているだけでワクワク感を抱かせる。

 このようなトレーニング環境について林さんは、「アメリカのデータや出力にこだわったトレーニングも重要ではありますが、巧みな身体操作や人間本来の動きを大切にしていかないと、パフォーマンスにつなげることはできない」と話す。

 また、一般的な課題としてあげるのが、病院とトレーナーとの“情報共有”についてだ。一般的に、ケガをした場合、選手が一人で受診し、感覚で自身の病状を伝え、医師からの診断を、選手が咀嚼して理解し、トレーナーへ伝えるという構造だ。専門家ではない選手本人が媒介することで、自身のことであるにも関わらず、正確な情報伝達が難しくなるということだ。その構造も、病院側と連携し、故障した選手の情報を双方で共有することで、選手自身が、正確な診断を受け、復帰後のパフォーマンスアップに向けて正確に行うことが可能になるのではないかと言う。

 いち学校でこのような機能を持つことは難しいが、外部施設によって補うことは可能であるはずという思いから、林さんはこの施設の立ち上げを決めたのだ。『KOROMO Athletic Training』が、日本の学生スポーツを一歩先へ進む原動力になる日も遠くはないはずだ。

【プロフィール】
林 優衣(はやしゆい)
1994年5月4日生まれ 大阪府出身
University of Nebraska at Kearney 修士卒
北海道日本ハムファイターズ ストレングス&コンディショニング(2019※インターン)
California Winter League Baseball アシスタントアスレチックトレーナー(2020)
横浜DeNAベイスターズ ストレングス&コンディショニング担当(2020-2022)
茨城ロボッツ ヘッドアスレチックトレーナー(2023-2024)
KOROMO ATHLETIC TRAINING 代表(2025-)