◆こだわったのは、『タイミング』と『数字』

─監督時代には開幕投手を告げることにこだわりを持たれていたのですね。

 「タイミングと数字を考えていました。監督3年目の2022年は大地が肘の手術をしていたので、彼が一軍に合流して、沖縄での調整をみて、2月14日のバレンタインの日に、時間も午後2時14分にLINEで伝えようと準備して待機していました。ですが、別のことに集中している間に、時間が過ぎてしまって……。なので、大地に電話をして『俺の部屋に来てくれ』と伝えて、会った瞬間に目の前でLINEを送りました(笑)。そして『今年も開幕投手を頼むな』と伝えましたね」

─佐々岡さんならではの気遣いですね。

 「僕は数字が好きですからね。現役時代も開幕投手が決まっている時、開幕の相手が中日であれば、キャンプ初日は相手監督の星野(仙一)さんの背番号に併せて『77球』を投げたりしていました。また、3月30日が開幕日であれば、キャンプ中に330球投げることもありました。『開幕投手が誰か?』と探っている報道陣の方が、330球投げた姿を見て、私が開幕投手だと気付いていたりしていました(笑)。とにかく数字にこだわってやっていました」

─330球はすごい数ですね。

 「当時は200〜300球くらい投げることが、“投げ込み”だと思っていました。もちろん北別府さんなど先輩方もそれが当たり前でした。100〜200くらいまでは、ある程度投げられるのですが、200球を過ぎたあたりから体がしんどくなるので、その状態から全身を使って投げ込むことが投げ込みだと思っていましたし、下半身を使いながら体全身でフォームを覚えさせていくというのが伝統的でした。若い頃の黒田(博樹)もそのような投げ込みをしていましたね」

─練習においても数字へのこだわりがあったのですね。

 「いろんなことを考えながら練習していました。今の投手たちが例えばブルペンで49球で終えていると、『50球投げて終わればいいのに』だとか、98球で終わったりする投手もいるので『それなら“100球”投げたらいいんじゃないの?』と思ってしまいます(笑)。納得したわけでもなく、変な数字で終わったりするのは、『それで納得してるんだ。何も思わないのかな……?』と感じてしまいますね」

─開幕投手として第1球目を投げるときはどんな気持ちなのでしょうか?

 「シーズン最初の1球目なので、全力で投げますし、相当昂っていました。私のこだわりはストレートだったので、まず『アウトコースにストレートを投げたい』という思いと『全力で一球目を投げてからシーズンをスタートするぞ』という気持ちでした。よほどブルペンで調子が悪ければ変化球を考えたかもしれませんが、基本は100%のストレートで行きたかったですね」

─開幕投手が決まったときに必ずやっていたこだわりなどはありますか?

 「とにかくこだわりましたね。靴下の履き方、マウンドに行くまでのラインを踏む足は左足、グラブを磨くのは当たり前で、スパイクを磨いて、靴紐も新しいものに変えて、神社参りをして……ルーティーンですね。とにかく万全の状態で挑んでいました」

─開幕の緊張感は他の試合と比べても違いますか?

 「前日までは普通に過ごせているのですが、開幕日はやはりシーズンの初戦ですし、周りの雰囲気も違います。練習まではそこまで感じないのですが、試合前にセレモニーなども始まり、ブルペンに入るあたりから少し違ってきます。1試合目というのはやはり緊張していました。本当に最初の一球目までは、足が震えることもありました。ですが、最初の第一球を投げたら落ち着いていましたね」

(第2回へ続く)