1993年の創刊以来、カープ、サンフレッチェを中心に「広島のアスリートたちの今」を伝えてきた『広島アスリートマガジン』は、2025年12月をもって休刊いたします。32年間の歴史を改めて振り返るべく、バックナンバーの中から、編集部が選ぶ“今、改めて読みたい”記事をセレクト。時代を超えて響く言葉や視点をお届けします。
第3回目の特集は、カープ歴代エースのインタビューセレクション。
佐々岡真司、黒田博樹、前田健太——。時代ごとに“エース”の名を背負い、広島のマウンドに立ち続けた男たちがいた。カープのエース系譜を刻んだ投手たちの言葉を、改めて辿っていく。
長年エースとして先発陣を牽引してきた前田健太が抜けた状況で迎えた2016年。先発の軸として期待されていたのが、当時26歳の野村祐輔だ。2012年に新人王に輝いた右腕は、不調に苦しむシーズンもありながらこの年キャリアハイの16勝をマークするなど完全復活した。25年ぶりの優勝に大きく貢献した背番号19がつくり上げた、『新しい自分』とは。(全2回/第1回)
(『広島アスリートマガジン2016年10月号』掲載記事を再編集)
◆新しい自分をつくり上げる
— 2016年までのエース・前田健太投手(現ドジャース)が抜けるという状況で今季プロ5年目を迎えた訳ですが、野村投手個人的にはどのような想いだったのでしょうか?
「『行ってしまうんだ……』という思いはありましたが、それでもチームとしてやっていかなければならないですからね。ですが『マエケン(前田健太)さんが抜けたから、やってやろう!』という気持ちは、正直ありませんでした。昨季、僕が胸を張れる成績を残していたならば『マエケンさんが抜けた後は、自分が先頭に立ってやってやろう』という気持ちになったかもしれません。でも昨季、僕は成績が残せなかった訳ですから、また新しい形、新しい自分をつくり上げていかなければならないという思いでシーズンに臨みました。もちろんマエケンさんのこともありますけど、過去2年間、チームに貢献できていない状態だったので、“まずは自分のことを”という気持ちが強かったですね」
— 新たに自分をつくり上げていくなかで、技術的にはどんな変化を加えたのですか?
「過去2年の反省を踏まえて、“大きく投げる”をテーマに変化を加えました。それは投げる動作だけではなく、普段のいろいろな動きから大きくしていかなければ、なかなか投げることだけ大きくするというのは難しいですからね。トレーニングするなかでも一つひとつの動きでも体を大きく動作することを意識していました」
— 大きく投げるということを試みて、どのような成果が得られたのでしょうか?
「制球力は増したと感じています。技術的に体のどの部分を頼るかということではなく、体全体を大きく使うことで、バランス良く投げることができるようになったと感じています」
— 開幕から順調に勝ち星を重ねられてきましたが、今季の投球のなかで、どの部分が一番良いと自己分析されますか?
「これまでの課題だったのですが、試合中の気持ちの切り替えが上手くできたという部分が一番大きいと思います。登板まで普段のルーティンを変えたことはありませんが、試合中ピンチの場面でも意識して気持ちを切り替えられるようにマウンドで時間を空けたりしていました」
— それは誰かにアドバイスされて試みたことなのですか?
「黒田(博樹)さんの投球をずっと見ていて、『この場面ではじっくり間を空けているな』とか『こういうところで気持ちを切り替えているのかな』など、仕草や動きを見させていただいているなかで想像しながら試してきました。黒田さんから直接アドバイスを受けた訳ではありませんが、黒田さんだけではなく、ジョンソンであったり他の投手の動きも見て、自分が感じたことを試してきました」
— そうすることでメンタル面が変わってきた部分はありますか?
「一番はマウンド上での余裕ができましたし、自分を落ち着かせて投げられる場面が増えたと思いますね」
(後編へ続く)