2025年シーズン、一軍で大きく飛躍を見せた中村奨成。背水で臨んだ今季、打撃フォーム大幅変更など様々な変化に挑んだ。プロ8年目にして一軍で結果を残し、輝きを放ち始めた背番号96に変化の裏側、苦悩、決断など、今季を振り返りながら語ってもらった。(全3回/第1回)

8月以降は1番打者としての起用が増え、リードオフマンとして打線をけん引した中村奨成

◆野球人生を変えた、福地コーチの言葉

─今季はキャリアハイの数字を更新した1年となりましたが、どんな気持ちでシーズンに入ったのですか?

 「そうですね、今年1年できなかったら、終わりだと思って……そういう気持ちでシーズンに臨みました」

─野手陣の振り込みが話題になった一軍キャンプを乗り切り、3月に二軍調整となりましたが、あの時の心境は?

 「自主トレの時から今年はできるんじゃないかという自信があってキャンプに入りました。ですが、オープン戦の結果が伴わなかったので、焦りがありました。3月に二軍調整となったときは正直『もう終わったな……』と思いました。諦めではないですけど、そういうところまで気持ち的に落ちていました」

─打撃フォームを変更したのは、その時期だったのですか?

 「キャンプの段階から打撃面はいろいろ取り組んできましたが、自分の中に落とし込む段階でうまくいっていない状況でした。気持ち的にも落ちていたからこそ『思い切っていろんなことを試そう』と思いました。二軍生活も長くなるかもしれないと覚悟していたときに、遠征先で福地さん(寿樹・二軍打撃兼走塁コーチ)から『ちょっと変えてみよう』と声をかけていただいたのですが、僕としては『二軍にいる今だからこそ、試せる』という気持ちでした」

─振り返ってみれば、この時期が今年のターニングポイントになったとも言えるのでしょうか。

 「その通りですね。僕としては、これまで頑なに打撃フォームを変えてきませんでした。あの時、あのタイミングで福地さんに声をかけていただいて、今となってはあの言葉が僕の野球人生を救ってくれたと思っています」

─打撃フォーム変更を言われた時、決断に迷いはありませんでしたか?

 「変えることに全く迷いはありませんでした。福地さんにアドバイスをいただきながら、(新井)良太さん(二軍打撃コーチ)にも指導していただいて、打撃フォーム変更をスタートさせました」

─新フォームはどのように変化したか聞かせてください。

 「具体的にはバットを担ぐような形で構えて、トップの位置が大きく変わりました。正直、最初はすごく違和感がありましたし、打っても力の入り方がつかめていないので遠くに飛ばなくて『本当にこれで打てるのかな……』と感じていました。ですが、良太さんに『その違和感と戦わないとレベルアップはないぞ』という言葉をもらえて、『今は試練の時だ』と思いましたし、変わっていくには、そういうことも必要だと改めて感じながら、練習に取り組んでいました」

─新しいフォームに手応えを感じるまで苦労もあったと伺いました。

 「打撃フォームを変えてからすぐに結果も出ませんでしたし、二軍とはいえ、遠征に帯同できないこともありました。その時期に、大野練習場で1人で打ち込んでいた日がありました。表現は悪いですが、少し遊び半分くらいの感覚で打ってみた時に『この感覚が良いかも……』と感じる瞬間がありました。もちろん、試合で投手と対戦しなければ分からないことですが、その日の練習感覚がすごく良くて、『早く試合に出たいな』という気持ちになっていました」

─そんな中、4月2日に一軍昇格となりました。

 「二軍でそういう状況だったタイミングだったので、思ったより早く一軍から声をかけていただいた感覚でした。最初の打席まで少し期間が空いていたので、一軍でも朝山さん(東洋・一軍打撃コーチ)、小窪(哲也・一軍打撃コーチ)さんにアドバイスをいただきながら良い練習ができていました」

─今季初打席でヒット(4月11日・巨人戦マツダ スタジアム)が出ましたが、どんな心境でしたか。

 「やはり初打席でヒットを打てたのは大きかったです。ここ数年思うように打てなかったですし、打撃フォームを変えてなかなか打席がもらえない中でしたからね。不安の中で打席に立ってヒットが出たので、正直ホッとしました」

─今シーズン初スタメンとなった阪神戦(4月20日・甲子園)では2安打を記録しました。

 「巨人戦から少し期間が空いた中でスタメンでしたが、その直前に二軍の試合で4本ヒットを打てたんです。そのときに『やっぱりこれは間違っていない』と感じることができた中で打てた阪神戦での2安打だったので、ある程度手応えはあったかもしれないですね。タイミング的にはそんなに変わっていないですし、バットの振り抜きの良さですね。フォームを変えてトップ位置が変わって練習していくうちに、思ったところにバットが出て、これまでよりも球を捉えられる感覚になりました」

(第2回へ続く)