カープ球団を支える人たちは、どんな仕事をしているのか?本連載は、さまざまな立場・場所からチームを支える人たちにスポットライトを当て、裏側のお仕事について探っていく。今回は選手のユニホームや練習着のクリーニングを担当する、施設運営部宇品クリーニング場から中野隆司(なかの・りゅうじ)さんが登場。現在の仕事内容や、クリーニング部門ならではの選手たちとのエピソードを聞いた。 (全2回/第2回)
◆再びビールかけ後のユニホームを洗濯したい
これまで14年間この仕事に携わってきて、印象に残っていることはたくさんありますが、黒田博樹さんが引退時、誰もいないロッカーで片付けをされていて、私が洗濯物を持っていくと「クリーニングのスタッフのみなさんに」と、200勝された時の記念品をいただいたことがありました。その心遣いがとてもうれしく、今でも忘れられない瞬間です。
我々もユニホームなどを納品に行った際に、選手のみなさんとコミュニケーションを取ることがあります。今は別のスタッフが現場へ納品していますが、私が担当していた頃は、廣瀬純さん(二軍守備走塁コーチ)がコーヒーをくださったり、安部友裕さんや磯村嘉孝選手などにはとても良くしていただいた記憶があります。
あともう一つ忘れられないのが、2018年にカープが優勝した時のビールかけです。
当時未成年だったアドゥワ誠投手だけ参加できず、ロッカールームで、カープのトラック運転手さんと、私の三人でその瞬間を見ていました。
ビールかけが終わったあと、選手たちが中に戻ると、私たちが「おめでとう」と言う側なのに、ハイタッチをして「おめでとう!」と私たちに言ってくださるんです。その雰囲気を経験できたことは私にとって宝物です。
そして、もちろんその後には、クリーニングが待っています(笑)。あの日は朝方4時くらいまで洗濯作業に時間がかかり、家に1時間のみ帰ってまた出勤するというイレギュラーな対応でした。その日にはまた試合があるので、再びきれいなユニホームを届けなくてはいけませんからね。なかなかビールの匂いが取れず、何度も洗濯機を回しましたが、大変さはまったくありませんでした。なんといってもカープが優勝したことのうれしさが全てを上回っていました。
ビールの匂いをとることも、我々にしか体験できないことですし、本当に感謝しています。そしてまた、この幸せな経験を、体験したことのない選手に体験してほしいですし、我々もビールのかかったユニホームを洗濯したい、ビールの匂い取りなら任せてください! と思っています。
日々クリーニング業務をしていると、毎日選手の名前と背番号が入ったユニホームを見るので、全ての選手に愛着が湧いてきます。育成選手の3桁の番号が2桁になったり、野村祐輔さん(三軍投手コーチ兼アナリスト)の番号が19番から、引退されて92番に変わったりなど、その過程を近くで感じられることは本当に幸せだと思います。また、二軍のマネージャーさんから、「この選手が一軍に上がるので、ユニホームをマツダ スタジアムに届けてください」と連絡をいただくので、その時は、『頑張れ!』と心の中で応援しています。
私もカープを応援する1人のファンでもありますので、こうして選手を支える立場で仕事ができるということは本当に幸せだと感じています。
カープ球団はまさに広島を象徴する球団であると思いますし、広島に、勝つ喜びや、負ける悔しさ、そして笑顔、総じて幸せを届けてくれるチームであると感じています。
この仕事は、もはや私にとって生活の一部だと思っているので、何かということはないのですが、陰ながらユニホームをきれいにして応援すること。選手がベストに戦えるように、選手の仕事道具を万全な状態で届けること。その一角に携われているということが幸せだと思っています。