2025シーズン、大迫敬介は堅守を誇ったサンフレッチェ広島の最後の砦として、ゴールに君臨し続けた。一方で日本代表としても着実にキャリアを積み重ね、世界の舞台も経験。広島のGKチームをけん引する存在となった大迫が、チームへの思いを語った。(全2回/第1回)

日本代表としても着実にキャリアを重ねている大迫。E-1選手権2025では最優秀GKに輝いた

◆GKチームの顔ぶれも変わり、自身の立場も変化したシーズン

ーまずは今シーズンのルヴァン杯優勝、おめでとうございます。今年は背番号『1』を背負って2年目のシーズンとなりましたが、振り返ってみていかがですか。

「終盤にかけてチームとして複数のタイトル争いができていたことは、充実したシーズンの証だったのではないかと思います。ルヴァン杯ではタイトルを獲ることができましたし、良い緊張感が続くなかで試合ができることは幸せですね」

ー林卓人選手(現コーチ)が2023年限りで現役を引退し、今季、川浪吾郎選手も移籍したことで、大迫選手がGKチームでもっとも広島歴の長い選手になりました。意識の面で変化はありましたか。

「今シーズン加入したヒル袈依廉選手は、僕にとっては初めてGKとして加入してきた後輩です。これまではずっと先輩の背中を追いかけてきましたが、先輩方が僕に示してくれたように、今度は自分がヒル選手に示していかなければいけないという思いもあります。今年はチョン ミンギ選手も加わりGKチームの顔ぶれも変わりましたが、田中雄大選手を含め、それぞれの選手がそれぞれの良い特徴を持っているので、僕自身もそのなかで違いを見せていかなければ試合に出ることはできません。新しい環境のなかで自分の立場も少しずつ変わってきたと感じていますが、すごく楽しいですし、充実しています」

ーその充実感の中で、大迫選手自身が成長を感じる部分はありますか。

「そうですね。プレーに対してすごく余裕が出てきたのではないかと思っています。難しい試合や難しいシチュエーションをいろいろと経験してきました。例えば先制されてもそれをひっくり返して勝つことのできた試合もありましたし、難しい状況を自分たちの力で一気に挽回できたこともありました。そうした自信の持てるゲームを多く経験できたことで、自分のなかでもプレーに対して余裕が出てきたのではないかと思っています」

ー大迫選手が日本代表活動でチームを離れている期間は、ミンギ選手がゴールを守る試合も多く見られました。特にルヴァン杯では、決勝以外の全試合でフル出場し、チームを決勝進出へ導いています。

「ミンギ選手は韓国人らしい、非常に身体能力の高い選手です。それに加えて人間性もとても良いので接しやすいですし、彼にしかないストロングポイントもあるので、一緒に練習していても盗むものはたくさんありますね。ルヴァン杯の決勝も、実のところ、ギリギリまでミンギ選手と僕のどちらが出場するかわかりませんでした。僕が出場すると決まって絶対に悔しくないはずはないのに、決勝当日ウォーミングアップでロッカーから出る時に、僕の背中をトントンと叩いてくれたんです。ハイタッチを交わしてピッチに出ていくのはいつものことなのですが、あの日、ミンギ選手に背中を叩かれた瞬間はすごく印象的でした。ミンギ選手に対しては申し訳ないという思いもあって、いつ声をかけようかと思っていたんです。それだけに、背中を叩かれた瞬間はすごくうれしかったですし、出るからには絶対に結果を出さなければならないと強く感じました」

ー優勝決定後、ミンギ選手と何か言葉を交わされたのでしょうか。

「優勝が決まってサブのメンバーがピッチに入ってきた時に、ミンギ選手が僕のところへ走ってきてくれて。そこで抱き合う時間は、いつもより長かったですね。それから、『ありがとう。みんなのおかげだよ』という話をしました」

ーそうしたGKチームの活躍もあり、広島は今シーズン、リーグ最少失点をキープしてきました。

「失点数など数字への意識やこだわりはもちろんあります。ただ、これは決して自分ひとりの力では達成できないものなので、広島の強みでもある強固な守備が数字として現れていることは、チーム全体の自信につながっていると思います」

ーやはりGKとしては、クリーンシートへのこだわりがあるのでしょうか。

「もちろんです。例え圧勝した試合でも、失点してしまうと後悔が残ります。フィールドプレーヤーが5点取ってくれたとしても、最後に1失点してしまうと、心の底から大喜びできるかというと……。もちろんチームの勝利が大前提ですが、やはりモヤモヤ感は残りますね。だからこそ、どんな試合でもクリーンシートに抑えることはすごく大切にしています」

ールヴァン杯の優勝直後にも、『失点してしまった』と口にされていました。優勝した試合であっても、やはりそういう思いから出た言葉だったのでしょうか。

「そうですね。優勝できたことはもちろんうれしかったのですが、完封勝利したかったというのは本音です」

(後編へ続く)