◆後々生きた打撃投手の経験

 当時試合での登板機会がなくても、しっかりと続けていたことがありました。それは打撃投手です。投げることが好きで、練習時の打撃投手も手を抜くことなくしっかりと取り組み続けました。そしてこれが、後々生きてくることになります。

 大学4年になると、同学年の故障もあり、試合で登板するチャンスが回ってきました。投げている内にどんどん球も速くなり、野球をしていて楽しかったですね。ここで打撃投手の経験が生きてくることになります。

 打撃投手は練習とはいえども打者と対峙できる貴重な機会です。そこで打者との駆け引きを意識してきたことが、実戦のマウンドで生きました。3年間の取り組みが、マウンドでの結果に結びついてきたのです。

 そして春の東都大野球連盟2部リーグでは5勝0敗の好成績でMVPを獲得でき、チームの1部昇格に貢献できました。そしてその年のドラフト会議の自由枠で阪神に指名されました。私としては順位も何も関係ありません。プロに行けるなんて思っていなかったので、ドラフトにかかるだけでもうれしすぎて、喜びでいっぱいでした。

 そしてプロ野球選手としての生活が始まったのですが、スタートは地道なリハビリからでした。実は大学時代に肘を痛めていたのです。ただこの時間も、後になって生きてくることになるのですが、当時は焦りもありましたし、決して面白いものではありませんでした。このプロ入り当初の話は、次回させていただこうと思います(Vol.2に続く)。

【江草仁貴/えぐさひろたか】
1980年9月3日生、広島県福山市出身。2002年ドラフト自由枠で阪神に入団。2005年に頭角を現し、中継ぎとして51試合に登板。リーグ優勝に貢献する。2011年シーズン途中に西武に、2012年開幕前に地元・カープに移籍(共にトレード)。カープでは6年間を過ごし2017年限りで現役引退。その後、大阪電大の野球部コーチを務めるなど、精力的に活動している。通算成績は349試合 442.1回 22勝17敗48ホールド 防御率3.15。