春季キャンプから評価も高く、開幕当初は一軍マウンドにも上がった。しかし結果が伴わず、終わってみれば登板は僅か5試合で防御率は5.63、2年ぶりの勝ち星を挙げることなくシーズンは幕を閉じた。

 「試合が続いて、試合の雰囲気に飲まれるということはなかったのですが、打者を抑えたいという感情が出過ぎてしまいました」

 力み。その一言で済ませるわけにはいくまい。昂る気持ちがあってこその勝負の世界ではあるが、それが本来のパフォーマンスを消してしまうことだってある。しかし矢崎の魅力は、論理的な思考力にもある。微妙な心の動きを的確に自己分析できているのだ。

 「気持ちはもちろんプラスに働くことは多いです。練習より試合の方が球速の速いことが多いです。でも、感情に引っ張られて練習でやってきたことができなければ意味がありません。そのバランスを自分のものにしたいです」

 この秋、矢崎には大事にしている感覚がある。その目に見えない繊細な『何か』を、卵のように丁寧に抱えながら練習に臨んでいる。

 「右足に力が溜まる感覚をいつも同じように持ちたいです」

 追い求める技術は多岐にわたるが、彼はより大きなパーツである下半身が安定すれば、投球のズレは小さくなると考えている。だからこそ、キャッチボールから丁寧に同じ動きを繰り返す。そして、その動きをマウンドに持ち込みたいのだ。