スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 前回に続いてカープのクローザー栗林良吏について書く。東京五輪の初戦まで、あと3週間ちょっととなった。

 投手陣は森下暢仁、栗林ら11人。中川皓太(巨人)が左第十肋骨骨折で代表入りを辞退し、代わりに千賀滉大(福岡ソフトバンク)が代表メンバー入りした。

 千賀は2017年の第4回WBCでリリーフを務めたことがあるため、五輪ではクローザーに起用される可能性もあると見られている。もちろん相手次第、状況いかんだが、チームで抑えを務める栗林や平良海馬(西武)は中継ぎに回ることもあるだろう。

 これは第4回WBCで投手コーチを務めた権藤博から聞いた話だが、日の丸をつけた試合での1イニングの重みは、日本シリーズのそれをはるかに上回るという。

 千賀に「もう1回行ってくれ!」と頼むと「もう嫌です!」と言ってグラブを投げつけられたエピソードを紹介してくれた。ベンチにいても、ひとつのアウトを取ることが、これほどしんどく感じられたことはないと語っていた。

 逆に言えば、国際試合の修羅場で、ピンチを切り抜ける経験は、その選手にとって何物にも代え難いということだ。ある意味、ルーキーの身で、そうした場に身を置くことのできる栗林は幸せ者である。

 栗林に対しては、「まだ本当の意味でのコントロールは身についていない」との声もあるが、気にすることはない。それよりも、腕をしっかり振ることを意識すべきだ。予定通りに昨年、五輪が開催されていたら、彼はテレビの前で観戦の身だったのだ。「オレは人にはない運を持っている」。自らにそう言い聞かせて大舞台に挑んで欲しい。

(広島アスリートアプリにて2021年7月5日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。