スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 NHKの中継で、カープのルーキー左腕・森浦大輔の印象を聞かれた解説者の武田一浩が「ルーキー時代の岩瀬仁紀に似ている」と語り、こう続けた。「ボールの切れがいい。チェンジアップが決まるようになれば、そうは打たれない」

 武田が福岡ダイエーから中日にFA移籍したのが1999年。この年、星野仙一監督の下、中日は11年ぶりのリーグ優勝を果たすのだが、ルーキーながら65試合に登板、10勝2敗1セーブ、防御率1.57の好成績で優勝に貢献したのが岩瀬だった。

 岩瀬は5シーズン、セットアッパーを務めた後、04年からクローザーに転向。NPB最多の通算407セーブをマークしたのは、周知の通りだ。

 岩瀬といえば代名詞はスライダーだが、アマチュア時代はカーブと中間のいわゆるスラーブをウイニングショットにしていた。曲がりが大きいため、バッターに見切られてしまうことがあった。

 どうすれば曲がりを小さくできるか。岩瀬はグラブを絞って肩を開かないようにした。こうしてバッターの手もとで「フッと消える」魔球のようなスライダーが完成したのである。

 これは、ある球団の元打撃コーチに聞いた話。19シーズンで2.31という驚異的な防御率を残した岩瀬にも「今日は打てそうだな」と思う時があったという。「前の肩が早く開くんですよ。こういう時は制球が安定せず、球筋も乱れていましたね」

 森浦に話を戻そう。岩瀬と同タイプなら、好不調を見極めるリトマス試験紙は「前の肩の開き」ということになる。フォーム上の注意点は、そこだけだ。健康に留意し(岩瀬はアルコールを口にしない)本家同様“無事之名馬”の道を歩んでもらいたい。

(広島アスリートアプリにて2021年8月23日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。