カープに不可欠な若手選手の育成

 だからカープの監督は、どんなときであろうと若い選手を鍛えていかなければならないと僕は思う。投げさせて、打たせて、失敗しても使って、叱ってはなだめて、泥まみれになるほどノックを受けさせて、野球に対する考え方を叩き込む……これはカープで育った人間としては当然のことであり、骨の髄まで染みついている節理なのだ。

 自分がこれまでやってもらったことを、今度は若い選手に向けてやっていく。教えてもらってきたことを、今度は逆に教えていく。それは自分が親になったとき、これまで親に言われてきたことを、そのままなぞっているという経験と同じである。

 気が付いたら「こんなことやられてイヤだったな」と思うことまで子どもに押し付けていたりする。「またやっちゃった」「親と同じことやっちゃった」―監督になって、そういうため息を何度ついたことだろう。

 やはり大人になっても人は自分が育てられた環境、教育、哲学、思想から逃れられないのだろうか? 良いことであれ悪いことであれ、そういうものをすべて繰り返してしまう。「三つ子の魂百まで」「この道はいつか来た道」という言葉が身に沁みて伝わってくる。そして若い人に教えることで、逆に自分がこれまで辿ってきた人生があぶりだされてしまうという不思議な体験もすることになる。

 そういう経験は歳を重ねた人なら「あるある」とわかってもらえるのではないだろうか?僕はそうだった。監督をやったことで、自分のこれまでの人生をこれでもかというくらい振り返ることになった。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。