カープの鈴木誠也(27)がポスティングシステムでのメジャー挑戦を表明した。カープの主軸として6年連続打率3割、25本以上を達成し、侍ジャパンの4番として東京五輪では金メダル獲得にも貢献。日本を代表するスラッガーを巡り、メジャー複数球団による争奪戦が予想される。

プロ1年目、ファームでの試合に臨む鈴木誠也。二軍で94安打を放った。

 ここでは、日本を代表する打者へ成長するまでの鈴木のプロ9年間の軌跡を辿る。今回は、プロ1年目のシーズンオフに行ったインタビューの後編をお送りする。

◆自分にさえ勝てれば絶対に成功する

─「自分に負けたくない」というのは、鈴木選手にとってどういうことですか?

「昔から『自分は自分』って思っています。小学生、中学生のときからそうで、一人相撲みたいな感じで野球をやってきたところもあるんです。ライバルっていうライバルもいなかったし、自分との戦いで、自分に負けなければそれでいいやと思っていました。だから今まで負けてたのは『自分』でした。やるって言ってもやらなかったり、素振りをやる、走り込みをやるって言っても1日やったら次の日から全然続きませんでした」

─今の鈴木選手からはなかなか想像がつかないお話ですね。

「今は『あいつは口だけ』って思われるのも嫌だし、自分にさえ勝てれば絶対に成功するって思っています。自分にさえ負けなければ何とかなるって思っています。二軍のときも打てないときは、体がきつくても休まなかった。きついから練習をしないっていうのは違うと思うし、きついながらも練習していたら結果が出てきていたので、そういう面では自信になっている部分もあるんです」

─それでも知らず知らず疲労は溜まってくると思いますが、それでもなぜ休むことなく、続けていたのでしょうか?

「きついからこそやった方が体は強くなるし、気持ちの面でも自分に『勝ってる』と思えます。少しでも野球に携わる時間を長くすれば、人よりも野球のことを考えていられるし、プロの世界はやったもん勝ちだって思っています。その日の試合で打てたら何もしない、打てなかったら練習するっていう選手にはなりたくないんです。打ててもやる、打てなくてもやるっていう選手が良い選手だと思っています。今やっている自分の練習や考えが今の時点では合っているのか分からないんですけど、これからずっと続けていけばそれが自信に変わっていくと思います」

─結果に関わらず、とにかく努力を重ねていくということですね。

「たとえば大谷(翔平)くんや藤浪(晋太郎)くんは、高校生のときから注目されていた選手だったし、活躍して当たり前というか。ただ、それで結果を残しているのはすごいと思うんです。あの二人は天才バッターとか、天才ピッチャーなのかなって思います。でも自分はそうじゃないし、天才じゃないし、努力してやらないといけない。天才だったら3月の時点で壁に当たらず、バンバン打っていると思うんです。でも、それが無理だった時点で天才じゃないと思うし、練習しないとダメなんだって思って。そうしたら良い結果が出てきたんで、改めてそういう努力の選手なんだなって思いましたね。自分に負けていたらダメなんだなと」

─練習へと熱心に取り組むようになったきっかけなどはあるのでしょうか?

「高校のときに『野球の神様が見てるぞ』ってしつこく言われたことがあったんですけど、全然言われたようにやらなかったんです(笑)。『神様なんて、嘘つけよ』って。でもプロに入って、練習をやらないときは結果が出なくなったし、頑張っていたら一軍に上がれてヒットも打つことができました。『もしかしたら野球の神様っているのかも……』という気持ちでやっていたら、夏場体がきつくて練習せずに布団に入って寝ようとしても、なんだか隙間とかから誰かに見られているような気がして。なんか怖くなって、練習やらないとダメだって思って、そのまま起きて裸足でベランダに行ってバットを振って寝たことがあるんですよ」

◆自分で自分を潰さないために、努力をやめない

─毎日練習をしていないと気持ちが悪い感じですか?

「バットを握っていない日があるのも嫌です。自分自身が練習をやらないんだったら、そういう風に思わなかったと思うんですけど、練習をずっとやってきてたから休んだときにそういう気持ちになるんです。『こんなんで活躍できんのか? いやできないだろ』って自問自答です。打てないと悔しいし、全部打ちたいっていう気持ちでいるから、また考え過ぎちゃう。考え過ぎなのかな、もう考えないでいいかなって思ったときもあったんですけど、堂林(翔太)さんに相談したら『すごい選手も何かしら自分の中で考えてやってるし、前田智徳さんも考えてやっていたんだよ』っていうのを聞いたら楽になりました」

─才能があるからこそ、練習することが大事だということを改めて実感したのでしょうか?

「それは高校のときからずっと言われていました。『お前は才能があるのに練習しないからダメなんだ。野球選手として潰れるぞ』って言われても『打てばいいんだろ』って心の中で思っていました(笑)。でもそれは高校生までの考えで、今は本当に自分の才能というか、足の速さ、肩の強さ、体の強さなど、生まれ持ったものを生かさないと意味がないと思っています。野球しかやってきていなくて、せっかくこういう世界に入れて、これで努力しなかったらもったいなさ過ぎますよね。自分で自分を潰したくないんです。練習して練習して、それで結果が出ない方がまだいいです。自分の才能がなかっただけと思えたらいいんですけど、あのとき練習しておけば良かったって思いたくないから、一生懸命やりたいですね」

─ストイックに過ごした2年が終わり、2年目のシーズンになりますが2014年はどんな年にしたいですか?

「一番はずっと一軍にいて、結果も出して認められる年にしたいです。レギュラーまではいかなくても半分以上の試合には出たいし、その中でもしっかり結果を出していきたいなって。目標設定を高くしておかないと、なんか終わっちゃう気がして嫌なんです。無理な目標を立てて、それを追いかけようと思って練習しているのに、それが簡単に達成されちゃうと『もういいかな』って思っちゃうんですよね」

─今掲げている目標はなんですか?

「100試合くらい出て、ホームランもそこそこ打てて、打率も3割。でも今の実力だとそれは無理なんです。そうやってやらないとやらなくなっちゃうんですよね。実は、今言ったのよりもっと高い目標はあるんですけど、自分の中だけで隠しています。達成できたときに自分で自分を褒めようかなって。それを達成したときは教えますね(笑)」