2021年に、広島アスリートマガジンWEBで反響が大きかった記事をお送りする「過去記事セレクション」。今回は、カープのレジェンド・前田智徳のドラフト秘話ついての記事をお送りします。(公開日2021年10月)

現役時代に打率3割以上を11回記録し、2007年に通算2000安打を達成した前田智徳。

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 2021年ドラフト会議で、カープは即戦力として期待される左腕投手・黒原拓未(関西学院大)を1位、2位では三菱重工westの左腕・森翔平を指名し、即戦力左腕を相次いで獲得した。

 7選手中、5選手が大学生・社会人の指名のなか、高校生は4位の田村俊介(愛工大名電高)、7位の髙木翔斗(県岐阜商高)の2人となった。

 4位指名の田村は、高校野球界の名門・愛工大名電高出身。担当の松本スカウトは「二刀流の選手。特に打撃が良く、バットコントロールはアマチュアトップレベル、西川龍馬二世」と高く評価しており、プロの世界でどんな活躍を見せてくれるのか、期待は膨らむ。

 カープの過去ドラフトを振り返ってみると・・前田智徳(1989年ドラフト4位)、金本知憲(1991年ドラフト4位)など、球界を代表する打者がドラフト4位指名であり、今シーズン首位打者争いを演じる坂倉将吾も2016年ドラフト4位だ。

 ここでは、長年カープスカウトとして活躍した故・備前喜夫氏が以前本誌に語ってくれた、前田智徳が4位指名となった経緯をお送りする。

◆他球団の評価は低いが、ウチの評価は変わらなかった

 打撃に対しての妥協なき姿勢から、前田は「サムライ」あるいは「芸術家」などとプロ野球ファン全体から評されています。入団前の高校時代からその面影はありましたが、地元熊本のラジオ番組やタウン誌を楽しみにしていたという面もあったそうで、もともとは素朴でおとなしい野球少年だったと記憶しています。

 4位という部分だけで見ると一見評価が低かったように見えますが、決してそうではありませんでした。彼の事は高校1年時から「熊本に非常に打撃センスの良い子がいる」という情報が、九州を担当していたスカウトの村上孝雄を通じて入っていました。

 彼は前田をずっと追いかけていて、「これはぜひとも欲しい選手ですので」と報告を受けていました。それで私も3年の春のセンバツに甲子園まで見に行ったんです。確かに足も速く肩も強くて守備範囲の広いセンターで、そして何より、球を芯で捉えるのが上手かったのです。

 ただこの大会では内容が悪かったので、それで他のチームの評価があまり高くなかったんじゃないかなと思います。ただうちの場合は評価は全く変わりませんでした。

 試合でヒットやホームランを打っても、何か自分で納得がいかない点があると度々首をかしげていました。そしてバットのボールが当たったポイントをじーっと見て確認している。これは現在とほとんど変わりませんが(笑)。

 高校時代から、結果だけを見ているのではなく、内容で自分のバッティングを分析するタイプでした。「打撃に対して相当こだわりを持っている子だな」と感心して見ていたものです。本人もプロ入り志望で、しかもカープ入団にも前向きだったので、獲得には問題はありませんでした。

 順位は4位と低かったですが、よくあの順位で獲れたと思っています。同期の仁平(馨・2位指名)、前間(卓・3位指名)が春から夏にかけて評価を上げていたこともあり、順位は先を越された形になりましたが、素材としては彼らに十分勝っていたと思っています。

 もし他球団に先に指名されていたら、悔やんでも悔やみきれない事になっていたかも知れませんが、村上が学校(熊本工高)側にも本人側にもしっかり話をして、十分に入り込んでいたのが大きかったと思います。