2005年から12年間をサンフレッチェで過ごし、数々のゴールとタイトル、あふれるクラブ愛でいまも多くの人々に愛されている佐藤寿人氏。共に紫のユニホームを着たチームメイトがピッチ上で見せた才能、意外な素顔などを連載『エースの証言』で振り返っていく。

【森﨑和幸・前編】ピッチにいると安心できる。当たり前のことを当たり前に

サンフレッチェの中盤で活躍した森﨑和幸

 カズ(森﨑和幸)に初めて会ったのは、僕が市原(現千葉)ユースでプレーしていた高校3年生のときです。2001年のワールドユース(現U-20W杯)出場を目指すU-18日本代表の候補メンバーの合宿で、サンフレッチェ広島ユースからはカズ、(森﨑)浩司、コマちゃん(駒野友一)が選ばれていました。

 人見知りなのがすぐに分かりました。誰とでも話ができる社交的な浩司とは対照的で、双子の兄と弟はどこも同じなんだな、と思ったことを覚えています。僕たちも、双子の兄の勇人は人見知りで、弟の僕は浩司と似た性格ですから。

 カズと浩司を見分けるのは、最初は難しかったです。当時は髪型が同じでしたからね。走り方もそっくりだったので、僕もウォーミングアップのときに真似したりして、いじっていました(笑)。

 選手としての特徴で特に印象に残っているのは〝頭の良さ〟。常に次のプレーが予測できているから、ボールを奪われても危険なエリアに先回りしてくれていたり、チーム全体に目を配っていました。それらは数値化できないので、外からは分かりにくいんですよね。でも、ピッチにいると安心できる選手でした。

 球際の強さも光っていましたが、それだけではないんです。次の展開を予測しながらポジションを修正し、わざと空けたスペースにパスを出させて奪う、という駆け引きが秀逸でした。

 最近、日本代表の遠藤航選手のデュエル(1対1)の強さが注目されていますが、試合中継の解説の際にスタジアムで試合を見ていると、鋭い予測と球際は、まさにカズと同じ。相手のミスに見える場面でも、そうなるように誘い込んでいるんです。

 カズはボールを止める・蹴るなど、当たり前のことを当たり前にできて、しかも質が高い。これは浩司も同じで、それだけサンフレッチェの育成のレベルが高いことを示していると思います。慢性疲労症候群で何度か離脱したときは、状態が良くなったときに連絡していました。

 浩司と2人、地元のプロクラブで常に注目され、期待の声と共に、時には批判も耳に届いていたかもしれません。僕たちには分からないほどの、大きな重圧の中でプレーしていたんだと思います。(後編に続く)

◆森﨑和幸(もりさき かずゆき)
1981年5月9日生、広島県出身。1999年、ユース所属の高校3年時にJリーグデビュー。2000年にJリーグ新人王。二度のJ2降格時も残留し、2012年以降の3回のJ1制覇に貢献した。2018年限りで現役を引退、翌年からサンフレッチェのクラブ・リレーションズ・マネージャーを務める。

◆佐藤寿人(さとう ひさと)
1982年3月12日生、埼玉県出身。2005年にサンフレッチェに移籍。3度のリーグ優勝に貢献し2012年にはMVPと得点王を獲得。2020年限りで現役引退。通算のJ1得点数は歴代2位。引退後は指導者・解説者として活動中。