2021年オフ、ポスティングシステムによるメジャー移籍を表明した鈴木誠也。2022年3月にはカブスと入団合意し、大型契約を結ぶと大きく注目を浴びた。

 開幕戦からスタメン出場を果たすと、6試合で打率.412、3本塁打、5打点の成績を残しプレイヤー・オブ・ザ・ウィークを受賞するなど、その活躍は海を越えてプロ野球ファンを喜ばせている。

 ここでは、“カープで育ったスラッガーがメジャーに羽ばたくまで”の軌跡を追う。第1回目の今回は、“背番号51”でスタートしたプロ入り直後の声を振り返る。

入団当時は同学年で同期入団の髙橋大樹(1位)、美間優槻(5位)と共に、スラッガートリオとして期待されていた鈴木誠也。

◆ プロ入り当初の目標はトリプルスリー

 鈴木は学生時代から、知る人ぞ知る選手だった。小学校低学年のときに地元・東京の荒川リトルで野球人生をスタートさせると、中学時代はエース兼4番として荒川シニアを全国大会に導いた。小学生時代から通常の練習だけではなく、父親と共に夜間練習も行うなど、当時から現在を思わせるストイックさを漂わせていた。

 「父親がショートが好きだったので最初はショートで、小学生時代はずっとショートを守っていましたが、高学年になってからはピッチャーもやっていました。ショートを守っていたので、好きな選手は当時巨人の二岡智宏選手でした。中学時代のポジションはファーストとピッチャーですね」

 その後、鈴木は『強豪校を倒しての甲子園出場』を目指して東京の古豪・二松学舎大付高に進学。1年時からレギュラーとして試合に出場し、秋からはエースナンバー1を背負い、本格的に投手として頭角を表すこととなった。

 「(高校入学)当初は怖いもの知らずで『投げてもバットに当てられる気がしない』という気持ちで強気でしたね。ただ、コントロールを意識するようになってから悩むことも多くなりました(苦笑)。すぐに試合に出られるという気持ちは全くありませんでしたし、(打撃に関しても)高校生の投手はすごいんだろうなと思っていました。でも、実際に対戦してみると『あまり中学時代と変わらないな』という印象があって、案外打つこともできました」

 150キロに迫るストレートを武器とする速球派投手として鳴らす一方で、打撃面も際立っていた。高校で積み重ねた本塁打は通算43本。甲子園は不出場、2年夏の都大会4強が最高成績だったものの、ドラフト前には複数のプロ球団が注目するまでになっていた。

 ちなみにこの年のドラフトは花巻東高の大谷翔平(日本ハム1位・現エンゼルス)、大阪桐蔭高・藤浪晋太郎(阪神1位)らに注目が集まっていた。

 「高校時代はずっとプロを目指していましたし、プロしか考えていませんでした。(ドラフト当日は)関係者の方から『広島2位指名』という連絡があって、みんな喜んでくれました。下位指名だと思っていたので本当にビックリしましたし、頭が真っ白で実感が湧きませんでした」

 高校時代から鈴木を追い続けてきた尾形佳紀スカウトは打力と走力を高く評価し、カープは鈴木を〝内野手として〟指名した。プロ1年目、2013年の春季キャンプでは主にショートでの練習を続け、泥まみれになりながら白球を追いかける毎日を送っていた。

 「ショートは自分の中でカッコいいという思いがありますし、やりがいはあります。でも本格的に始めると難しいですね(苦笑)。いろいろな判断が要求されますし、頭も疲れます」

 高卒ルーキーの鈴木はキャンプ二軍スタートであったが、大器の片鱗を見せていた。かつて前田智徳が背負っていた背番号51のユニホームに袖を通すと、春季キャンプ2日目には半日とはいえ早くも一軍の練習に帯同。インフルエンザを発症したフレッド・ルイスに変わる一日限定の参加だったとはいえ、野村謙二郎監督(当時)を筆頭に首脳陣から高い評価を受けた。

 「一軍は緊張感が全く違うなと思いました。練習に参加させていただいて、また一軍で練習したいと強く思いました。(プロに入って3カ月を迎え)体力的な面は問題ありませんが、一軍の投手が投げる球は(高校生とは)全然違うなということを実感しています」

 キャンプを終え、ルーキーながら大きな期待をかけられた鈴木は教育リーグに続き、ウエスタン・リーグ開幕戦でも〝9番・サード〟でスタメン出場を果たした。まだまだ線は細かったものの、当時から野球センスは新人選手の中でも桁違いだった。

 「何でもいいので『プロにいたんだ』という記録を残せる選手になりたいです。一番の大きな目標は野村(謙二郎・元)監督も達成された『トリプルスリー』です。また長い年数、プロとしてプレーしていきたいですね。僕と同じくプロに入ってから野手になった堂林(翔太)さんを目標にして、将来は一緒に三遊間を守りたいです」

 これはプロ入り3カ月後に鈴木が発したコメントだ。当時カープは25年ぶりの優勝前夜。菊池涼介ら多くの若手選手が一軍で台頭し、チームが変化し始めた中で、鈴木はプロの第一歩をスタートさせた。

《プロフィール》
鈴木誠也(すずき・せいや)
1994年8月18日生、東京都出身。
二松学舎大付高-広島(2012年ドラフト2位-2021)-カブス(2022〜)
◆日本通算成績
 902試合 2976打数 937安打 打率.315 182本塁打 562打点 82盗塁
◆タイトル・表彰
 首位打者2回(2019、2021年)、最高出塁率2回(2019、2021年)
 ベストナイン6回(外野手部門:2016〜2021年)
 ゴールデングラブ賞5回(外野手部門:2016、2017年、2019〜2021年)