2005年から12年間をサンフレッチェで過ごし、数々のゴールとタイトル、あふれるクラブ愛でいまも多くの人々に愛されている佐藤寿人氏。共に紫のユニホームを着たチームメイトがピッチ上で見せた才能、意外な素顔などを連載『エースの証言』で振り返っていく。

クラブの外国人選手史上、最長の9年間在籍したミキッチ

◆初めから印象は良かった。多くのゴールをアシスト

 ミカとの出会いは2008年、開幕前のトルコキャンプ。練習試合で対戦したディナモ・ザグレブの右サイドで出場していました。クロアチアを代表する名門クラブですから、他にも素晴らしい選手がたくさんいたのですが、最も衝撃を受けたのがミカのプレーでした。

 ボールを持ったら瞬間的に加速するスピードで突破して、クロスを送ってチャンスを作り出す。ガンガン仕掛けていくプレーを何度も繰り返していました。サンフレッチェの左サイドは守備もうまい服部公太さんで、普段は簡単に突破されないのに、なかなか止めることができない。ミキッチという名前は知らなかったので、試合後はみんなで「あの右サイドの選手、ヤバいね」と話していました。

 だから、2009年に加入が決まったときは戦力アップへの期待だけでなく、「あの選手を獲得できるの?」という驚きもありました。いずれは欧州のビッグクラブに行くと思っていましたからね。

 言葉が通じない異国の地で、知らない選手たちと一緒にプレーするわけですから、当初は苦労しただろうと思います。でも初めから印象は良かったですし、少しずつ素顔を知ることもできました。J1復帰1年目だったサンフレッチェは、横浜F・マリノスとの開幕戦に4-2で勝ち、ミカも素晴らしいプレーを見せます。その後も試合を重ねるたびに「右サイドの新外国人選手、すごいね」という声が各クラブから聞こえてきました。

 同じ右サイドでも、コマ(駒野友一)とは特徴が異なりました。コマは見ている場所を共有し、タイミングなど細かいところも合わせて〝ゴールを作る〟イメージ。ミカは仕掛けるプレーが武器なので、あまり多く要求すると仕掛けた後の判断に迷いが出ると思い、自分のタイミングで仕掛けてクロスを上げてもらい、こちらは常に準備して、〝どんなクロスにも反応できる〟ようにしていました。

 一緒に居残り練習をしたことはありません。ミカは全体練習で力を出し切ることを意識していたと思いますし、彼なりのプライドがあったのかもしれません。それでもミカのアシストで、多くのゴールを決めることができました。2011年にアウェイでのセレッソ大阪戦(●4-5)で決めた後半アディショナルタイムの4点目や、2012年、アウェイでの川崎フロンターレ戦(○4-1)での先制点などが特に印象に残っています。2015年にアウェイでのベガルタ仙台戦(○4-3)で決めた先制点は、ミカの仕掛けからGKとDFの間のスペースを見つける過程で、ストライカーのアドレナリンが出るというか、ゾクゾクするものを感じたゴールでした。

 2010年に僕がディナモ・ザグレブから獲得オファーを受けたときは、もちろん相談しています。ミカはディナモやクロアチアの良いところと同じくらい、日本やサンフレッチェの良さ、ここでプレーする意味などを話してくれて、最終的に残留という決断を下しました。(後編に続く)

《プロフィール》
ミハエル・ミキッチ
1980年1月6日生、クロアチア出身、ポジション・MF
サンフレッチェ広島/2009年〜2017年
クロアチアやドイツのクラブでのプレーを経て、2009年にサンフレッチェに加入。クラブの外国人選手史上最長の9年間在籍し、スピードを生かした突破からのクロスで多くの得点をアシストするなど、3回のJ1優勝に貢献した。2018年限りで現役を引退。