11,000人を越えるサポーターの前で、8年ぶりとなるルヴァンカップ決勝進出を決めたサンフレッチェ広島。『4つ目の星』奪取に向け躍進を続ける紫軍団は、8月中の公式戦は無敗、一時はリーグ首位に立つ快進撃を見せてサッカーファンの関心を集めた。

 ここでは、サンフレッチェ広島OB・吉田安孝氏に、2022年8月上旬からのサンフレッチェを振り返りながら、注目選手やプレーなどを熱く語ってもらった。

 吉田氏が注目した、『リーグ全試合でもトップクラス』のゲームとは……?
(データは全て9月6日の取材時点)

8月20日のG大阪戦でハットトリックを達成した、ナッシム・ベン・カリファ。

◆スイス人ストライカー、遂に覚醒。圧巻のハットトリック

 今シーズン、スキッベ監督が目指すサッカーでは、「ずっと走ること」、そして「プレーの強度」が求められています。当然、選手にとってもタフな戦術ですから、正直なところ、ポイントは「夏場にどれだけ走れるか」だと思っていました。

 ここまでサンフレッチェは、選手の大幅なターンオーバーをするわけでもなく戦い続けてきたわけですから、いつか体力的にも、集中力的にも切れてしまうタイミングが来るのではないかと思っていたのですが……それはまったくの杞憂でした。監督はもう一歩先を読んで、計算をし尽くして準備をしていたということでしょう。まさに天晴れ! の一言です。そして何より、監督の要求と期待に応えた選手たちもまた、素晴らしいと思います。

 では、8月14日(○2ー3)の柏戦から振り返っていきましょう。柏は非常に高い強度を誇るチームですから、選手同士のバトルも楽しみな対戦カードでした。この試合で活躍したのが、J1初ゴールをあげた松本泰志と、今シーズン初ゴールをあげた藤井智也の2人です。先制したものの逆転されるという展開の中、若い選手が躍動し、見事に試合をひっくり返してくれました。

 20日のG大阪戦(○5ー2)は、チームの底力を感じる一戦になりました。この試合の主役はなんといっても、ハットトリックを達成したナッシム・ベンカリファでしょう。先制される展開で始まり、一度は追いついたものの再び突き放され……という苦しい時間が続きましたが、ベンカリファの大活躍で、後半31分にはついに勝ち越します。そして満田誠、松本も次々にゴールを決め、終わってみれば後半で4得点をあげ快勝。

 特にベンカリファの2得点目、ワントラップからのシュートは見事でしたね。パスを供給した野津田岳人もさすがの存在感でした。

 G大阪戦の5点目となった松本のゴールは、佐々木翔からのパスを、DFとGKの間である裏のスペースで受けて決めた得点です。この、「裏のスペースに入り込む」、「後方から相手の隙を突く」というテクニックは、彼の大きな武器になっています。またこのゴールでは、パスを出した佐々木の存在も効いていました。佐々木の武器の一つに、「質の高い縦パスを出せる」という点があります。佐々木の一つの動き、一つのパスがチームを何度も救い、攻撃に厚みを与えていることは間違いありません。

 8月27日のC大阪戦(○0ー3)は、今シーズンの試合の中でも、トップクラスにハイレベルな一戦となりました。

 一進一退のゲームの中、均衡を破ったのが、今シーズン初得点をあげた茶島雄介です。

 茶島は広島出身で、Jr.ユース、ユースを経たまさに『生え抜き』。そして、努力の人でもあります。C大阪戦でのヘディングシュートも、胸に当ててもいい、足で蹴ってもいいという状況下で、瞬時に判断して頭で合わせていました。クロスを上げた柏好文、パスをつないだ両ウイングバック、そこに走り込んだ茶島……。

 まさに、サンフレッチェが目指す『両ウイングを高い位置で保つ』攻撃が、見事に形になった勝利でした。

 =後編へ続く=