◆雨が降ろうが何があろうが、集中力を持ってやるだけ
今シーズンの新井は、グラウンドに足を踏み入れた瞬間からずっと同じ行動を続けている。広島市民球場の場合、午後1時までに球場入りして2時過ぎにはまずレフトスタンド下の屋内打撃練習場へ向かう。そこでひとしきり汗を流してから今度は他の選手と一緒にティー打撃とフリー打撃をこなす。それが終わるとサードの守備についてノックを受ける。ノックのあとはじっくりグラウンドにトンボをかけ、さらに2塁と1塁から走塁練習をして試合に向けてのすべての準備を終える。
「体調とか毎日、同じような状態でゲームに入れる訳じゃないんで……。それでまず屋内で投げてもらって打ってみるんです。自分では頭に描いた通りにスイングしているつもりでも微妙に変わってくるので、それをちゃんと自分の感覚に戻すんです。例えば自分では突っ込んでないと思っても突っ込んでいたり、打ちに行ってると思っても受けてみたり、バッティングはすごく微妙なんですね。そのへんをいろいろ考えながらやっています。フリー打撃では強い打球を打つことが一番。たまにスイングが小さくなっていると思えばボールを飛ばすという意識でスタンドにも打ちますけど、あくまでゲームに入っていく中での練習なので大きいのを打とうとかいうのはないですね。まあ、練習では飛ばそうと思えば飛びますからね。守備練習は前の日にしょうもないエラーをした時なんか自分で決めて多めに受けています。自分への罰じゃないですけど。ピッチャーの人に申し訳ないし自分にも腹立ちますし……」
そんな新井を見てきて印象的な試合があった。雨に始まり8回途中でついには降雨コールドゲームに終わった、9月4日の巨人戦。先発レイボーン以下、中継ぎ陣が17安打され守りのミスも続出する中、雨を突いて猛ダッシュで打球をさばくその姿には気迫がこもっていた。
「野手も一生懸命やってもヒットが出ない時の方が多い訳で、ピッチャーも必死でやってもうまくいかない時もあると思います。野村さんが2000本安打された時のコメントに『いいことは少ししかない。大半は悪いこと。でもいい時の喜びを味わうために苦しいことを我慢してやってきた』というのがありましたが、ほんと、そうですよ。雨が降ろうが何があろうが、集中力をもってしっかりやろうと、それだけですね」
新井の持ち味は空を切り裂く大アーチだけではない。逆に言えばこうしたグラウンド上での振舞い全てがホームランキングへの道につながっている。『キング新井』。その称号を手にした瞬間から平成のミスター赤ヘル物語が始まる。