◆ひとつのきっかけで若い選手はグッと伸びる

 僕は「そういう考え方がダメなんだ。おまえが今言っていることは単なる講釈だ。今言ったような球を狙って何球投げられる? 解説者が言うようなセリフをそのまま口にしているようじゃ一生勝てないぞ」と叱った。そして「2人とも強い球を、コースはどこでもいいからヒザの高さに投げろ。インコースとかアウトコースとかは問わない。困ったときはヒザの高さに一番強い球を投げるんだ」と言い聞かせた。

 それ以来、中﨑はガラッと変わった。球が速くなってビックリした。彼はもともと速い球を投げられたのだが、コントロールを意識しすぎて委縮しがちだったのだ。彼はそれとともにマウンド上での顔つきも変わった。それも僕が仕掛けたものだ。「おまえは優しい顔をしているから意識して怖い顔をつくるようにしろ」と言ったのだ。

 戸田にも「おまえはいつもインコースに投げると帽子をとって謝るしぐさをする。逆に怖い顔をつくるぐらいの気持ちでやれ」とアドバイスしたが、それによって彼の勝負に対する気持ちも変わってきたように思う。ひとつきっかけを摑むと若い選手はグッと伸びていく。試行錯誤を繰り返しながらも、僕たち指導者はずっとその瞬間を探しているのだ。

 外国人選手でも入れ替えは発生した。エルドレッドは夏場に絶不調に陥り二軍に落としたが、キラやエルドレッドがいない打撃陣の中で(ライネル)ロサリオが奮闘してくれた。夏に獲得したピッチャーの(デュアンテ)ヒースもバリントンが調子を落としたところをカバーしてくれた。この年は外国人選手が多く、やりくりには苦労したが、そのぶん結果も残してくれた。

 こうして見ると2014年は誰かがケガや不調に陥ると、代わりに出た選手が活躍してその穴を埋めてくれた。それはチーム全体の力が上がってきたということであり、その結果として最終的に勝率5割以上の成績が残せたのではないかと思っている。

 ちなみにエルドレッドに関しては二度ほど二軍に落としたが、僕は一軍に上げるタイミングを間違えるという失敗を犯してしまった。彼は春の絶好調ぶりが噓のように低迷してしまい、一度気分転換のため二軍に行かせた。そして「そろそろ大丈夫だろう」と思い最短期間で一軍に戻した。