◆2014年に伸びた若手の筆頭格は……

 だが調子は上がらず再び二軍に落とすことにしたのだが、そのとき「もうちょっと時間がほしかった。現状だと自分が戦力になっていないことはよくわかっていた。あと1週間でも10日間でもあれば元に戻すことができていた」と言ってきたのだ。

 それに対し僕は「10日間あればリフレッシュできたかと思って戻したが、俺の判断ミスだった」と謝った。だけど「リーグ終盤、CSを目指す上でおまえの力は必要だから、絶対また上がってきてくれ」という言葉は忘れないように付け加えた。

 外国人選手は契約のことがあるから、一度モチベーションをなくしてしまうと戦力としてカウントできなくなってしまう。その具体例が(ザック)フィリップスという左ピッチャーで、彼はこの年獲得して二軍で良い成績を残していたが、バリントン、ミコライオの壁に阻まれて一軍に上げることができなかった。こういう巡り合わせの悪さというのも残念ながら野球にはつきものだ。

 それにしても、2014年はとにかく多くの選手を試した。二軍の練習場がある由宇にも何度も足を運んだし、僕が顔を出すことで「監督が来ているから入れ替えがあるのか?」と選手たちのモチベーションを煽ることも期待した。

 その2014年に伸びた若手の筆頭格が(鈴木)誠也だろう。誠也は本当はもう1年実力をつけてから一軍に上げようと思っていたが、球を打つタイミングのとり方を変えたら一気にバッティングが柔らかくなった。そしてとてつもない打球を飛ばしはじめた。

 その成長ぶりはキクじゃないが「ひとつのアドバイスで人はここまで変わるのか?」と思うほどの変化で、フリーバッティングだけ見ると完全に一軍レベルだった。それで前倒しで一軍に呼んだのだが、彼の存在には堂林も触発されているだろう。2人が競争することで若手の底上げがますます進み、次は誰が出てくるのか楽しみな状態になった。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。