広島アスリートマガジンWEBでは、これまでカープやサンフレッチェをはじめ、広島のスポーツの魅力を伝えてきた。ここでは、2022年に特に反響の多かった記事を振り返る。

 数々の名スカウトたちが独自の “眼力” で多くの逸材を発掘してきたカープ。広島アスリートマガジン創刊当時(2003年)の人気連載『コイが生まれた日』から、カープ打線が“ビッグレッドマシン”の愛称で恐れられた時代に、“右の代打の切り札”として勝負強い打撃で何度もチームを救った町田公二郎の入団秘話をお送りする。

2006年に現役を引退すると、阪神、カープでコーチとしても活躍。現在は大学・高校野球の分野でコーチとして指導に当たっている。

◆金本知憲と同期入団ですが、大学時代は町田の方が評価が高く、即戦力外野手として1位指名しました。

 カープが6度目の優勝を果たした、1991年優勝した年の秋のドラフト1位が専修大学で4番を打っていた町田です。

 当時の専大は一部と二部を行き来していたのであまり強いチームではなかったように思いますが、東都大学リーグを代表する強打の外野手として、全日本大学選抜でも4番を打っていました。ちなみにその時の3番は4位で指名した東北福祉大の金本知憲(元カープ・阪神)でした。

 ただ最初に1位指名したのは、町田ではありませんでした。同じく東都大学リーグのNo.1投手、駒澤大学の若田部健一(ソフト三軍投手コーチ)を指名したのです。神奈川県出身で在京球団希望の若田部を「将来の投手陣の柱」として強行指名しましたが、巨人・ダイエー・西武との4球団での競合となり、抽選の結果交渉権はダイエーが獲得。敗れたカープは改めて1位に町田を指名しました。俗に言う「はずれ1位」ですが、バッティングはもちろん、守備も足も評価が高かった町田を獲得できた事は、十分成功と言えるドラフトだったように思います。

 町田という選手の存在は、明徳義塾高校時代から私達スカウトは知っていました。しかし彼は早い段階で進学を決めており、接触する事はほとんどできませんでした。当時から長距離打者として注目されていましたが、粗い部分もあったので、球団としては「4年後に期待する」という事で指名は見送りました。

 私が初めて彼に会ったのは、ドラフト指名後のあいさつの時でした。通常は野球部の寮に行くのですが、この時はJR京浜東北線の沿線にある彼のアパートを訪ねました。4年生は既に野球部の寮から出ており、町田もキャンパスやグランドから離れた街で一人暮らしをしていたのです。

 その時に金銭面も含めた具体的な話もしましたが、印象としては「おとなしい子だな」という感じでした。現在でも物静かなイメージをファンの方々はお持ちでしょうが、私から見ても、当時からさほど変わっていないように思います。

 同期入団の金本とは、当初からよく比較されました。しかし当時まだ線が細かった金本と比べて、町田は筋力的にも十分プロの身体が出来上がっていました。即戦力としての評価は金本よりも町田の方が上でした。

 ただ1年目は早い時期に故障をした影響で、一軍デビューは6月からとやや出遅れました。それでもその年の優勝チームであるヤクルト戦でのサヨナラアーチなど、後半戦だけで6本の本塁打を打ちました。この年は49試合の出場でしたが、翌1993年は103試合に出場し、本塁打6本。プロ入りから2年間で109安打12本塁打は、同期間の金本の17安打4本塁打をはるかに上回っていました。

 順調に育っていれば、おそらくレギュラーポジションを獲得していたはずだと思います。しかし3年目の1994年にまた故障してしまい、18試合しか出場できず2安打0本塁打に終わってしまいました。逆に金本がこの年90試合出場で69安打17本塁打と開花。さらに緒方孝市も86試合出場で26安打3本塁打と、この2人が後にレギュラーを獲得する足がかりを作った年にもなりました。

 町田が最も注目されたのは、5年目の1996年の事です。前年に一軍に定着した浅井と共に左右の代打の切り札として、成功率は4割以上。リーグ優勝は逃しましたが、最後まで優勝争いを演じた原動力になりました。セ・リーグ最多の代打本塁打18本を放っている町田ですが、この年を境に「代打の切り札」のイメージが強くなっていきました。

 その打力を代打以外でも生かそうと、町田は本職の外野だけでなく、ファースト、サード、さらにはセカンドを守った事もあります。ヘラクレスと呼ばれた筋骨隆々の体型と甘いマスク、穏やかな性格で独身時代は女性ファンが多かったようです。しかし私から見ればやや大人し過ぎるように見えて、素質からすると早い段階からレギュラーになっていてもおかしくない選手でしたから。

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