◆すべての苦い経験は未来に生かされる

 そう、この試合では(鈴木)誠也についても触れなければいけない。僕はこの試合で彼を七番・ライトでスタメン起用した。結果は5打数0安打、チャンスでことごとく失敗した。

 特に印象的だったのは7回表、前の小窪(哲也)が敬遠され、1死満塁の状況でサードゴロに倒れたシーンだ。それは誠也にとって一生忘れられない打席になったことだろう。あの場面、誰もが誠也に期待した。「ここで打ったらCSは1勝1敗のタイになる。そうなると勝負の行方はわからなくなる」という場面で彼は凡打に終わってしまった。

 それは苦いかもしれないが、彼にとっては最高の経験だ。いつか彼が押しも押されもせぬレギュラーになったとき、僕は「あの打席で打てなかった悔しさが僕をこうさせてくれました」という発言を聞きたいと思う。この悔しさをバネに汗水垂らしてバットを振り続けてくれれば、僕はそれで十分だ。

 だからあの場面、僕は誠也をそのまま打たせたことに後悔はしていない。彼はこの時点でまだ二十歳。それを僕の“置き土産”と言ってしまってはカッコよすぎるが、彼のハートに火を点けるきっかけになってくれるのなら意味があったと思っている。すべての苦い経験は未来に生かされるためにあるのだから。

 CS第2戦、チームは負けたわけでもないし負けた気もしないが、結局スコアレスの0対0でCS敗退ということになった。試合中の心境もいつもと同じだった。以前も話したが僕はユニホームを着た瞬間に性格が変わる。目の前の試合をどうやって勝つかしか考えなくなる。だからこの2試合の感想も、ただ戦うことに没頭していただけである。