2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 10月11日、CSファーストステージ、甲子園での阪神戦。僕は“キクマル”コンビをスタメンの一、二番に抜擢し、堂林(翔太)もスタメン起用した。それは僕が描いていた理想のオーダーでもあった。

 このままいけばチームリーダーになってくれるだろう待望の若手選手が、やっと育ってきた。そんな彼らに大事な試合を託したいと思っていた。彼らに良い流れをつくってもらい、彼らの働きで点を取りたい―。

 最終的に“理想の打線”は機能しなかったが、相手投手にとっては脅威になったことだろう。この日打てなかった新オーダーについてはすべて僕の責任だと思っている。

 そして背水の陣で迎えた翌日の第2戦。この日先発した(大瀬良)大地の投球は、カープの未来が明るいことを示してくれたのではないだろうか。彼はルーキーとしてプロの世界を経験する中で、苦しいこともあったと思うが、何の因果かこの年一番最後の一番大事な試合に先発することになった。そこで勝つことはできなかったが、相手に1点もやることなく7回まで投げ抜いた。あの特別な雰囲気の中で今季最高と言ってもいい素晴らしい投球を見せてくれた。

 大地は2014年に10勝を上げたが、この試合の投球だけで3勝ぶんくらいの価値があると僕は思う。それくらい胸を打つ内容だった。彼にとってこの試合は大きな自信になるだろうし、これをきっかけにさらなる飛躍を遂げることを願うばかりだ。

 CSでは大地以外にも多くの若手が躍動した。前日には一岡(竜司)が投げたし、2戦目では中﨑(翔太)も投げた。2人とも無失点で抑えてくれたが、彼らが活躍してくれればくれるほど寂しい気持ちが湧いてきたことも確かだった。

 本当なら「こいつらの未来、明るいなぁ」と思える選手たちと、もっともっと戦っていきたい。しかしシーズン前から、5年で一区切りと決めていた。明るい未来を残してチームを去れるのであれば、カープ一筋でやってきた自分にとっては本望だろうと言い聞かせた。勝てなかったのは残念だが、素晴らしい試合の指揮を執らせてもらえて幸せだった。