全世界がコロナ禍に揺れた2020年。プロスポーツも興行延期を余儀なくされ、人々の生活様式は大きく変化した。

 甲子園出場を目指して高校球児たちも、さまざまな制限を受ける学生生活を過ごしていた。高陽東高・野球部でキャプテンを務めた木村青空(きむら・そら)くんもまた、後輩たちにどうやって『高陽東の野球を伝えるか』葛藤の日々を送っていた。

 前編はこちら。

マツダスタジアムで開催された広島大会。高陽東と国泰寺の熱戦に多くの注目が集まった。

◆現状を乗り越える力、仲間の大切さ……感謝の思いを噛み締めた1回戦

「結局1年生に高陽東の野球を見せることができたのは、夏の大会直前でした」

 そして迎えた最終学年。2022年の夏の広島県予選大会は、制限はあるものの観客を入れ、吹奏楽部の応援も復活することになった。組合せ抽選の結果、高陽東は開幕戦で国泰寺との対戦が決まった。舞台はカープの本拠地・マツダスタジアムだ。

「コロナ禍で始まった3年間だったので、マツダスタジアムで開幕戦ができると決まったときはうれしかったです。保護者の方たちに試合をする姿を直接見てもらう機会があまりなかったので、自分たちの全力プレーを最高の舞台で見せることができるのは親孝行だと思い、うれしかったです」

 木村くんにとっては初となる、高陽東の応援がある中でのプレー。

「試合は本当に楽しかったです。ベンチにいるだけでもウキウキしました。コロナ禍の3年間で大変なこともありましたが、その中でも最大限のことをさせてもらっていたので、本当に幸せな時間でした」

 ベンチスタートだった木村くんは、代打で途中出場。マツダスタジアムのグラウンドに立ち、仲間と保護者の見守る前で全力プレーを見せた。そしてチームは見事に1回戦で勝利した。

「制限の多い3年間でした。ようやく練習ができるようになったと思ったら、またできなくなって……その繰り返しでした。ただ、それを言い訳にしていては進まないので、受け入れて、乗り越えていく力はついたのではないかと思います。あと、仲間の大切さを改めて感じました。苦しいときに支えあえる仲間、助けてくれた指導者、保護者のみなさま。支えてくれた全ての方に感謝しています」

 誰もが経験したことのない状況に直面し、乗り越えてきた3年間。苦しい思いをしたからこそ手に入れたものがある。

 困難に直面しても、ポジティブに考える力、切り替える力。

 コロナ禍における野球部の経験は、球児と指導者たちの未来を支えてくれるに違いない。

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