2005年から12年間をサンフレッチェで過ごし、数々のゴールとタイトル、あふれるクラブ愛でいまも多くの人々に愛されている佐藤寿人氏。
共に紫のユニホームを着たチームメートがピッチ上で見せた才能、意外な素顔を、連載『エースの証言』で振り返っていく。
◆カタールW杯・ドイツ戦での逆転ゴール。素晴らしい一撃に興奮
海外に行ってからも、シーズンオフになると所属クラブのユニホームを持って会いに来てくれました。日本代表でも活躍するようになり、2017年にロシアW杯出場を決めた一戦では先制点を決めて貢献しています。ただ翌年、本大会のメンバーには選ばれませんでした。直後に食事に行ったとき、愚痴の一つも言いたくなるような状況なのに「自分の力が足りなかったです」「また頑張ります」と自分に矢印を向けていて、たくましさを感じたものです。
今回のカタールW杯も9月にクラブでの試合でケガをして、メンバー発表までに戦列に復帰できなかったので、気になっていました。会見でポイチさんが拓磨の名前を呼んだときは、うれしさと同時にホッとしましたね。大会前のカナダとの親善試合で復帰して、ポイチさんと拓磨が状態を把握できたことも大きかったと思います。
ドイツ戦、僕は仕事で現地のスタジアムにいました。試合前に大型モニターでメンバーが発表されて、拓磨の名前が映し出されたときに写真を撮ったんです。4年前の拓磨の姿を知っている僕としては、それだけでも大きな喜びでした。
でも、それだけじゃなかった。交代出場した直後から積極的にゴールを狙い続けて、あの逆転ゴールを決めたんです。素晴らしい一撃で、スタンドで見ていて興奮しました。ポイチさんが指揮を執るW杯の初戦で、拓磨が勝利を引き寄せるゴールを決める。僕にとっても特別な試合になりました。
日本代表はドイツに続いてスペインにも勝ち、グループステージを首位で突破して世界を驚かせました。その過程でゴールという結果を出した拓磨は今後、クラブでもステップアップしていくでしょう。プロ1年目から見てきた選手のキャリアが、W杯につながっているのを見ることができて感慨深いです。あの舞台を経験したことで、間違いなくいろいろなものが見えてくると思いますし、目標のベスト8に届かなかった悔しさも原動力になるでしょう。まだ28歳ですから、ますます今後が楽しみです。
振り返ってみるとサンフレッチェ時代の拓磨は、僕からポジションを奪ってやるというギラギラ感を見せていて、あのエネルギーを感じることができたのは、僕のその後のキャリアにとっても良いことでした。刺激を与えてくれる存在でありながら、いつも近い距離でいてくれた後輩です。オフになったら再会して、W杯の話を聞いてみたいと思っています。