カープを実況し続けて20年。広島アスリートマガジンでも『赤ヘル注目の男たち』を連載中の坂上俊次氏(中国放送アナウンサー)による完全書き下ろしコラムを掲載! 長年カープを取材してきた坂上氏が、カープの育成方法、そして脈々と受け継がれるカープ野球の真髄を解き明かします。連載4回目の今回は、今季のカープのキーワードでもある“一体感”を掲げる佐々岡真司監督の野球という競技にかける想いに迫ります。
◆新監督が持つ投手哲学
シーズン開幕は延期となり、全体練習ができない。新型コロナウィルスの感染リスクを抑えるため、指揮官がグランドに立てない時期もあった。
それでも、新監督の佐々岡真司は『一体感』の旗印を降ろすことはなかった。練習ではノックバットを握り続け、打撃投手役も買って出た。練習後の球拾いにも加わり、スタッフに労いの言葉を掛けた。さらに、分離練習でグランドに入れない時間帯も、スタンドに腰を下ろし、練習の様子に視線を注いだ。
佐々岡監督には信念がある。「団体競技はチームが勝つためにやるもの。チームの優勝が一番」というものである。それは、孤高のマウンドに立ち続けた現役時代から一貫していた。570試合に登板、先発で100勝をマークすれば、ストッパーとして100セーブを記録。通算完投数は66、ノーヒットノーランも達成している。それでも、スター然としたところもなければ、自分の力量ばかりを強調することもない。
「完投だって、ノーヒットノーランだって、みんなが守ってくれるからこそできることです。バックが守ってくれて、打ってくれる。そのおかげで勝つことできます」。
『謙虚』『優しさ』『人間性』、似合う言葉は数多とあるが、佐々岡監督の人物像を過不足なく表現できるものは見つからない。ただ、社会人野球・NTT中国での、こんなエピソードを聞いたことがある。
「凄く厳しい練習だったのを覚えています。スクワット1000回とか、開脚500回というのが冬季練習でありました。最初は、できるわけがないと思いました。しかし、チーム全員が円陣を組み、交互に10回ずつ回数をカウントします。懸命に声を出し合う間に、1000回に到達できるようになっていたのです」。
ある種、一体感の持つ力を実感した原点であった。30年以上前のことである。朝は早く出社して、職場の湯呑みを洗った。午前中は社業、午後は練習、夜にはユニホームの洗濯もあった。こういった環境で佐々岡はより強くなり、人間性を磨いていった。ときに孤軍奮闘のマウンドこそあっても、背番号18は、チームとしての戦いを続けた。