カープのエースと四番の価値

「首位打者を獲得したことよりも最高出塁率がうれしかった」。鈴木は4番らしからぬチームの貢献指標に価値をおいている。

先発、中継ぎ、抑えを経験した大瀬良とメイクチャンスで「後ろにつなぐ」意識の鈴木。カープの主軸は、チームの勝利に向けて、ペルソナを柔軟に変えることができるのが強みだ。これはカープの土壌で培われたゆえの価値観ともいえるだろう。

1984年、日本一となったカープには、エース・山根和夫と4番・山本浩二がいた。ペナントレースを勝ち抜き、短期決戦の日本シリーズを制するためには、投打の「柱」が必要になる。山根は日本シリーズ第7戦に三度目の先発をし、完投勝利、見事胴上げ投手になった。

3連覇のチームに足りなかったもの。それは、流れを振り戻す心柱だったのではないだろうか。

働きアリの法則では、よく働くアリ(Aランク)がいなくなると、それまで普通に働いていたアリ(Bランク)がよく働くアリになるという。前田健太が移籍した2016年にカープが優勝できたのは、この法則を繰り返してきた宿命からの学びの成果であったのだろう。

大瀬良や鈴木の関心や価値観がそうであるように、カープの徒弟的風土はチームへの貢献意識と使命感を育む。

前田健太・黒田博樹を追いかけ、エースの階段を駆け上がった大瀬良は今、大黒柱としてその背中を森下暢仁にしっかりと見せている。

「エースと4番を育てる」

カープならそれができるのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高柿 健(たかがき けん)
広島県出身の高校野球研究者。城西大経営学部准教授(経営学博士)。星槎大教員免許科目「野球」講師。東京大医学部「鉄門」野球部戦略アドバイザー。中小企業診断士、キャリアコンサルタント。広島商高在籍時に甲子園優勝を経験(1988年)、3年時は主将。高校野球の指導者を20年務めた。広島県立総合技術高コーチでセンバツ大会出場(2011年)。三村敏之監督と「コーチ学」について研究した。広島商と広陵の100年にわたるライバル関係を比較論述した黒澤賞論文(日本経営管理協会)で「協会賞」を受賞(2013年)。雑誌「ベースボールクリニック」ベースボールマガジン社で『勝者のインテリジェンス-ジャイアントキリングを可能にする野球の論理学―』を連載中。