組織論・戦略論 などの視点から、近年のカープの強さ・魅力の秘密を紐解いていく、広島アスリートマガジンwebでしか体感できない講義・『カープ戦略解析室』。案内人は、高校野球の指導者を20年務め、現在は城西大経営学部准教授として教鞭をとるなど多彩な肩書きを持つ高柿健。6回目の今回は、“エースと4番がもたらす力”にスポットを当てた。

エースと四番は育てられない?

プロ野球が帰ってきた。

春を失ったプロ野球の三か月は、その意味を考えさせられる時間となった。前回の連載で述べたように、今年は例年以上にファンと選手の「あきらめない」思いを共鳴させるシーズンになるだろう。

故・野村克也氏は「野村ノート」(小学館)にこう記している。

「エースと四番は育てられない」

野村氏は阪神の監督を務めていた時代、阪神の歴代4番について掛布雅之以外はR.バース、P.オマリー、田淵幸一と育成した選手ではないとオーナに進言した。彼らは育成するものではなく、出会うものなのだという。

プレーヤーとしてだけでなく、指導者としても一流の実績を持つ野村氏においても、4番・エースを一から育てあげることは難しいのだ。しかし、この言葉に抗わなければならないチームがある。

それが、カープだ。カープは偶然の出会いではなく、必然のスカウトと育成で投打の大黒柱を立てなければならない。

カープはこれまでの歴史の中で川口和久、黒田博樹、大竹寛、前田健太といったエースと江藤智、金本知憲、新井貴浩など生え抜きの四番打者をFAやポスティングで失ってきた。だが、この宿命に挑んだ経験がカープの財産になったことは、これまでの連載において繰り返し述べさせていただいた。

新たな種をまき、水をやり、陽を当ててきた循環栽培のカープの土壌は、他のチームよりも肥沃(ひよく)なのだ。その結果、今、カープには大木となった大瀬良大地と鈴木誠也が立っている。