福井の名門・敦賀気比高から育成選手として入団し、プロ4年目を迎えた前川誠太。その高い打撃センスは育成時代から評価を集めてきた。育成再契約からついに支配下登録を勝ち取った若鯉は、手術からの復活を目指すシーズンをどのように乗り越えてきたのだろうか。(全2回/第1回)

8月5日に一軍昇格すると、同日のDeNA戦でプロ初打席に立った

◆「やってきたことは、間違っていなかった」

─7月28日に支配下登録となり、そこから約1カ月、一軍に帯同しています(取材時点)。ここまでを振り返っていかがですか。

 「まずは、自分がこれまでやってきたことが間違っていなかったんだと感じています。課題はいろいろあるのですが、今はこれまでやってきたことを変えずに、日々の試合に向き合えていると思います」

─8月7日のDeNA戦ではプロ初安打も生まれ、試合後にはヒーローインタビューにも選ばれました。『一軍で通用する』という手応えを感じた瞬間はあったのでしょうか。

 「まだまだ一軍での対戦も少ないですし、ここから先は相手チームも自分の情報を集めて対策を練ってくるはずなので、そのなかでいかに戦えるかが大事になってくるのではないかと思います。『ここからが大事だ』というのが今の気持ちです」

─前川選手は2021年育成ドラフト2位での入団ですが、当時、育成指名されたことについてどのように受け止めていましたか。

 「自分のなかには『育成であってもプロの世界に行きたい』という思いがあったので、育成かどうかや、順位はあまり気にしていませんでした。ただ、支配下に上がれなければ終わっていく世界だということもわかっていたので、その覚悟を持って入団しました」

─育成選手は3年で一区切りと言われることが多いですが、期限のあるなかで支配下を目指していくことに、プレッシャーや焦りを感じることはありましたか。

 「与えられた期限が決まっているなかでやっていかなければならないので、もちろん焦りはありました。支配下の枠の関係もありますし、年々焦りは増していきました。特に2024年は左足首の手術もしましたし、今シーズンは戦力外から育成再契約でのスタートだったので『チャンスはあと1年しかない』という思いで、支配下登録期限の7月31日までをどう過ごそうかという気持ちもありました。ただ、やるしかないということも分かっていたので、試合でアピールするだけだと思ってやってきました」

─7月末が支配下登録の期限であり、前川選手はまさに期限間際の7月28日に支配下に登録されました。支配下が決まった瞬間はどのような思いでしたか。

 「とにかくびっくりしました。支配下登録になれそうだという雰囲気も全く感じていなかったので……。自分自身、状態が少しずつ落ちてきていると感じていたタイミングでしたし、正直『やばいな』と思っていた時期もあったので、なんとか結果を出さないと、という思いの方が強かったです。そんななかでの支配下登録だったので、本当に驚きました」

─背番号は93に決まりました。

 「背番号の数字に対しては特に思うことはありませんでした。それよりも、三桁から二桁になったことの方が大きかったです。後はとにかく、これまで4年間取り組んできたことを、一軍で一部でも出すことができれば、という気持ちでやってきました。育成3年目に手術をして、そこから再契約の打診をしてもらえたのは『もう一度チャンスをもらえたんだ』と感じましたし、だからこそ、結果で恩返しをしていかないといけないとも思いました」

(後編へ続く)