⽟⽊のノックを受けるのは、成⻑途上にあるファームの選⼿である。⽟⽊は、さらに強い意識を持ち、意図ある守備練習を考えた。

 「緩い打球です。ノックばかりでなく、⼿でゴロを転がすことも多くしました。強い打球と違って、緩いゴロをアウトにするためには、⾜を使わないといけません。⾜を運んで、いち早く球の正⾯に⼊って、送球する必要があります」

 ノックにおいて、強烈な弾道の打球に⽬が向けられがちだが、彼は、ボテボテの打球にこそ重きを置いている。狙いのひとつは、選⼿に⾜を使わせることだが、それだけではない。

 「詰まった打球やボテボテのゴロ、投⼿は、『打ち取った』という感覚のはずです。そういうものを確実にアウトにすることが⼤事だと思います」

 ⽣きているかのように弾む打球を放ちながらも、あくまで彼が求めるのは『基本」である。

 ⾜を運んで正⾯に⼊って打球を処理するという基本。投⼿が打ち取ったと思う打球を確実にアウトにする基本である。だからこそ、この猛暑の夏も、⽟⽊は1本のノックに⼼を込めた。

 「練習量が少し減るときでも、しっかり狙いを持って打ち分けて、選⼿の守備⼒向上につながればと思いました」

 そして⽟⽊が真に求めるのは、夏にもバテないような選⼿である。

 技術もそうですが、まずは体⼒です。体⼒がないと、実⼒があっても発揮はできません。⼀軍で優勝したときも、夏に強い選⼿が多かったです。投⼿も野⼿もバテることがありませんでした」

 あれだけの巧緻なノックを打つことで⽟⽊が鍛えているのは、技術だけではない。かといって、体⼒だけでもない。

 「野球の神様っていると思います。⼀つのエラーで負けることもあれば、チャンスを逃してしまうことだってありえます。だから、1球の重みを知ってもらいたいです」

 現役時代は、守備⼒の⾼さを⾼く評価される⼀⽅で、レギュラーをつかむことはできなかった。しかし、試合終盤の守備固めにおいて、1球の重さも⾝をもって感じてきた。これまでの野球⼈⽣で、⾒つけた答えは⼀つ。絶対的な解でもなければ、近道でもない。しかし、この道しかない。それは、地道に、⾜を運んで確実にアウトを奪う守備である。

<著者プロフィール>
坂上俊次(さかうえしゅんじ)。中国放送アナウンサー。 
1975年12月21日生。1999年に株式会社中国放送へ入社し、カープ戦の実況中継を担当。著書に『カープ魂 33の人生訓』、『惚れる力』(サンフィールド)、『優勝請負人』、『優勝請負人2』(本分社)があり、『優勝請負人』は、第5回広島本大賞を受賞。現在『広島アスリートマガジン』、『デイリースポーツ広島版』で連載を持っている。

広島アスリートマガジンの名物連載『赤ヘル注目の男たち』でもおなじみ、坂上俊次さん(中国放送アナウンサー)が執筆した書籍『「育てて勝つ」はカープの流儀』(カンゼン)が絶賛発売中!

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