8月3日、日本サッカー協会(JFA)は、今西和男氏の日本サッカー殿堂入りを正式に発表した。

日本サッカー殿堂入りとなった、故・今西和男さん。

 今西さんは1941年、広島県生まれ。東洋工業(現マツダ)蹴球部で日本代表DFとして活躍し、現役引退後は指導者、GMとしてクラブの強化を担った。のちに日本代表監督となるハンス・オフト氏の招聘を実現したほか、日本代表監督の森保一氏、風間八宏氏(南葛SC監督兼テクニカルダイレクター)、高木琢也氏(V・ファーレン長崎監督)らを見い出し、日本サッカー界を支える数多くの人材の育成にも尽力した、日本屈指の育成・強化責任者として知られている。

 2026年4月16日、今西さんは85歳で生涯の幕を閉じた。

 できることなら、ご本人が存命のうちにこの知らせを受け取っていただきたかった。表彰式でどのような表情を見せられただろうか。そして、これまでに育ててきた教え子たちに囲まれた際に、どのような言葉を発しただろうか。

 少し照れながらも笑顔を浮かべながら「ありがとう、ほいじゃお祝いに飲みに行こうか」とおっしゃったかもしれない。そんな姿を想像すると、この場に今西さんがいないことが惜しまれてならない。

 この殿堂入りには大きな意味がある。今西さん自身が日本サッカー界に残してきた数々の功績が評価されたことは事実だ。マツダSC、サンフレッチェ広島でのクラブづくり、育成への取り組み、そして数え切れないほどの選手や指導者との出会い。それら一つひとつが、日本サッカーの礎となってきた。

 ただ、今回の殿堂入りは、それだけではないように思う。

 日本代表・森保一監督をはじめ、高木琢也氏、森山佳郎氏(ベガルタ仙台監督)、横内昭展氏(モンテディオ山形監督)、片野坂知宏氏(ロアッソ熊本監督)、風間八宏氏、小林伸二氏(AC長野パルセイロ監督)など、今西さんの薫陶を受けた多くの指導者が、それぞれの立場で活躍を続けている。彼らが発する言葉や、チームづくりに向き合う姿には今西さんから受け継がれた価値観が静かに流れているように感じる。

 「人はどう育つのか」という問いに向き合い続けた今西さんの育成哲学が、教え子たちの中に今も自然と息づいている。その証なのではないか。

 人を育てるという仕事は、その場ですぐに成果が見えるものではない。何年、何十年という長い時間を経て、その人の生き方や仕事ぶりとなって表れる。そして、その積み重ねが社会に認められたとき、初めて育てた人の仕事も評価される。

 人を育てたことが、その人たちのその後の歩みを通して評価される。今回の殿堂入りは、まさにその象徴ではないだろうか。この殿堂入りこそ、今西さんにとって最も本質的な評価だったのではないか、と思う。

 選手としての実績でもなく、監督としての勝利数でもない。育てた人たちが、それぞれの場所で活躍し、その姿を通して、育てた人の価値が改めて認められる。

 今西さんご本人に直接、この知らせを届けることはできなかった。それだけが悔やまれる。それでも、これほど「育成」という価値を体現した評価はないのではないか。

【短期連載】
「日本代表・森保一監督の言葉から見る 今西和男の育成哲学」

  

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今西和男著『聞く、伝える、考える。〜私がサッカーから学び 人を育てる上で貫いたこと〜』(好評発売中)

 Jリーグ黎明期から「育成型クラブ」として知られるサンフレッチェ広島。かつて、サンフレッチェ広島発足前後に総監督(ゼネラルマネージャー)として、クラブの基礎を築き上げたのが今西氏。本書は、サンフレッチェ広島の基礎を創り上げた今西氏の「哲学」と「育成論」を言語化。自身がサッカーを通じて経験してきた「人材育成哲学のルーツと伝えてきたこと」が綴られています。

 また、本書の第二部、第三部では、「今西氏の教え・影響を受けた人物の証言」を多数収録。森保一(日本代表監督)、横内昭展(モンテディオ山形監督)、森山佳郎(ベガルタ監督)、引退後もサンフレッチェ広島を支える森﨑和幸・浩司兄弟・駒野友一による特別座談会、さらに、サンフレッチェ広島の黎明期に活躍した風間八宏、元日本代表監督・ハンス・オフトなど、今西氏の教えと哲学の背景についても理解できる内容で構成されています。

 これからのサッカー界・スポーツ界を支えていく指導者、未来のアスリートを育てる保護者の皆様、さらにサッカーファン、ビジネスパーソンにとっても必見の一冊です。

【書籍概要】
■タイトル:「聞く、伝える、考える。〜私がサッカーから学び 人を育てる上で貫いたこと〜」
■著者:今西 和男(いまにし・かずお)
■定価:2,200円(本体 2,000円+消費税10%)
■ページ数:240ページ
■発行:アスリートマガジン