◆今のカープに求められる「チーム·レジリエンス」

 自然環境の復元力や回復力のことをレジリエンスという。最近はここから派生して、心理学などの人文学や経営学(組織論)といった社会科学の分野でも使われるようになってきた言葉だ。

 今、カープに求められているのは、このレジリエンスではないだろうか。レジリエンスが高まれば一定の外圧までは衝撃を吸収することができる。ダメージを受けても回復できるのだ。しかし、その外圧がさらに強化、継続されると次第に回復力は衰え、やがて閾値(いきち)と呼ばれる限界点を迎えることになる。

 今年のカープは僅差での負けや引き分けが非常に多い。序盤から失点を重ね、中盤以降で閾値を超えて大量失点し、終盤追い上げるも僅差で追いつけない。今シーズンのカープの敗戦パターンの一つだろう。

 ただ、決してカープは相手のパンチに無抵抗に逃げているだけではない。必死にガードを固め、手数も出している。勝負所でのチーム・レジリエンスを半歩高めることができれば、再び、『逆転のカープ』と呼ばれることになるだろう。

 では、どうすればカープのレジリエンスを高めることができるのだろうか?

 一つは前回の連載でも取り上げたチームのアーキテクチャーを見直していかなければならない。限定されたメンバーの能力に依存したチームづくりでは、レギュラーの故障によって大きなダメージを負ってしまう。戦力や戦いのプロセスを脱集中化しなければならないのだ。

 そのためには、文化人類学者のレヴィ・ストロースが言う「ブリコラージュ」の思考に転換しなければならないだろう。ブリコラージュの語源は、フランス語の「繕う」「誤魔化す」という意味を表す「ブリコルール」だ。このブリコラージュという概念を端的に解説すると、計画的に理想を追い求めるのではなく、現状にあるものを組み合わせて事態に対処するというものだ。

 経営学には組織と戦略について2つの相反する命題がある。それは経営学者・チャンドラーが言った「組織は戦略に従う」、そして経営学者・アンゾフの言った「戦略は組織に従う」だ。

 この「組織」を「チーム」に置き換えて考えるならば、戦力が充実しているチームはチャンドラーが言うように理想の戦略ありきで勝負することができるだろう。

 しかし、今のカープのように戦力の充実が図れない状況では、チーム(メンバー)のポテンシャルに合わせた戦略を構築しなければならない。前述したブリコラージュに基づき、戦略をチームの戦力に従ってつくり直さなければならないのだ。

 当たり前に聞こえるかもしれないが、ハイレベルで理想型の戦いが強いられるプロ野球チームでは、この視点の転換は意外と難しい。