2019年は森下暢仁、2020年は栗林良史と、競合必至と思われた即戦力投手を、2年連続で一本釣りで獲得したカープ。しかし過去には、“クジ”に運命を左右された年もあった。そこで思い出されるのが2013年プロ野球ドラフト会議だろう。

2013年ドラフト指名後のインタビューに応じる、カープ入団前の大瀬良大地投手。

 この年カープは、当時大学球界ナンバーワン右腕と呼ばれていた九州共立大学の大瀬良大地投手を1位指名。将来有望な右腕に人気は集中し、阪神、ヤクルトも1位指名となり3球団での競合となった。阪神・和田豊監督、ヤクルト・小川淳司監督と共にクジ引きに臨んだのは、当時の野村謙二郎監督ではなく、高校生の頃から大瀬良を見守り続けてきた田村恵スカウトだった。

 担当スカウトがクジを引くのはカープ球団初の試み。カープカラーの真っ赤なパンツを身に纏い勝負の“クジ”に臨んだ田村スカウトは、現役時代に捕手だったこともあり、抽選箱に入れたのはミットを持つ左手だった。2番目にクジを引くと、見事に“当たりクジ”を引き当てて壇上でガッツポーズを見せ、その様子を見守っていた大瀬良は笑顔を見せた。

「実際に自分の名前が呼ばれて、画面に名前が載っていることに実感が湧きませんでした。実は緊張もしていなかったんです。でも、さすがにクジ引きのときはどうなるんだろうってドキドキはしましたね。ずっと僕を見てきてくれた田村さんがその中にいて、クジを引かれるというのが分かったときは、田村さんに少なからず情が入ったりしました(笑)」

 ドラフト指名直後の本誌インタビューで笑顔でドラフトを振り返ってくれた大瀬良。カープ入団以降はプロ1年目から10勝を挙げる活躍で新人王を獲得すると、2018年には15勝を挙げ最多勝を獲得。今季は怪我により離脱したが、カープのエースとしてチームを支え続けている。

 ドラフト1位で大瀬良を獲得できたことで結果的に成功と呼ばれている2013年のドラフト。その影には、見えない糸で結ばれた選手とスカウトの縁があった。