開幕ローテ入りを果たしてから約1カ月。初勝利以降に負け、勝ちが交互に続いていた森下暢仁。上昇気流に乗り始めたのは夏以降だった。

 8月7日の阪神戦(マツダスタジアム)では初めて1学年下の坂倉将吾とバッテリーを組み、3勝目をマークした。結果的にこの登板以降、最終登板まで全て坂倉とバッテリーを組むことになる。球を受け続けた坂倉は森下の印象をこう語る。

今季18試合に登板して10勝3敗、防御率1.91と大活躍を見せた森下投手

「森下さんの良さは全部の球種でバッターと勝負できる点だと思います。リードする際に特別なことはありませんが、森下さんを見ているというよりは、どちらかといえばバッターの反応を見て『どれがいいのかな?』とか、球種選択を特に心がけていました。偏り出すと、狙い撃ちされやすくなると思うので、カウントでもそうですし、場面で偏りすぎないように、緩急だったり左右、高低を使いながら、意識していました」

 坂倉はイニング間、密にコミュニケーションを重ねながら、日々コンビネーションを深め、森下の白星をアシストし続けた。そんな日々を過ごし、プロの打者と対戦を繰り返しながら、森下は少しずつ自身の投球に対して手応えを感じていた。

「ストレートをしっかりと投げれば、ファールになったり空振りも取れていたので、しっかりと自信を持って投げることができていました。ストレートがしっかりしていれば、変化球も有効になってくると感じながら投げています」

 150キロを超えるストレートに多彩な変化球を織り交ぜ、緩急をつけながら数々の強打者を翻弄。シーズンを通じてリーグ3位となる124個の三振を奪った。そして見逃せないのが、強靭なスタミナだ。登板した全18試合の内、16試合で100球以上を投げ、7イニング以上を12試合記録するなど、苦しい投手事情の中で先発投手としての役割を全うした。必死に先発ローテーションを守り続けるその裏では、さまざまな試行錯誤を繰り返していたという。

「やっぱり体力的にもメンタル的にも疲れることはあったので、そこはいろんな人とコミュニケーションを取りながらやってきて乗り越えました。大学時代とは違ってプロはバッターのレベルも全く違いますし、そこが一番キツかった部分ですね」

 夏場以降、順調に勝ち星を積み重ねていく中で、プロ入り前から目標に掲げてきた『新人王』争いも注目された。ライバルとなったのはセ・リーグ首位をひた走り続ける巨人の高卒2年目・戸郷翔征。開幕3連勝と好スタートを切った戸郷は、8月を終えた時点で7勝2敗。一方の森下は5勝2敗。戸郷との新人王争いに注目度が高まる中で、森下はそのプレッシャーを力に変えていった。

「やはり終盤になるまで勝ち越すことができていなかったので、そこはやっぱり勝ち越して、自分も新人王を取りたいという気持ちがありました。僕自身は本当に良い刺激になりながら、日々野球に取り組むことができました」

 9月は4試合に登板で1勝に留まったものの、10月に入ると抜群の安定感を誇る投球を展開した。10月3日のヤクルト戦(神宮)で7回無失点で7勝目をマーク。続く10月10日のヤクルト戦(マツダスタジアム)で6回無失点で8勝目を手にし、勝ち星で戸郷と並んだ。そして10月24日のDeNA戦(横浜)では9回4安打1失点でプロ2度目の完投勝利を飾り9勝目。打っては自ら決勝打を放つ圧巻の活躍で、ついに勝ち星で戸郷を上回った。

 自身10勝目をかけた11月1日の中日戦は、明治大の先輩である柳裕也と息詰まる投手戦となった。粘り強く投げた結果、8回無失点。10勝目と共にシーズン規定投球回数も達成。新人王争いで断然優位な立場となり、今季の登板を終えた。

「今季を振り返るといろいろと印象に残っていますね。プロ初登板もそうですし、プロ初勝利、柳さんとの投げ合いもそうですし、いろんな選手と対戦することもできました。そういうシーズン1年間全ての経験が印象に残っています」

 数々のインパクトを見せつけた森下のルーキーイヤー。必死に投げ続ける中でシーズン中盤からはカード頭を託されるほどの信頼を得た。そして最後まで先発投手としての責任を見事に果たした。

 最後にルーキーイヤーで自身は何を学んだのか、尋ねてみた。

「ケガなく1年間プレーをするためには、どんなことをしなければならないのか、勝つためには何を考えなければならないのかだったり、先発を任される中ではしっかりと準備をしなければ勝てないということも分かりました。一番は、いろんな方々の力を借りながら準備をすることが大事だということを学んだと思います」

 主軸先発が3人も離脱し、緊急事態とも言える状況となった投手陣の救世主的な活躍を見せた森下。終盤戦に見せた快投はまさにエース級であり、今季カープ投手陣のMVPとも言える活躍だったと言えるだろう。