佐々岡カープ元年、主力選手が故障などで苦しむ姿が目立つ中で、多くの若手選手が躍動した。ここでは「初」をキーワードに2020年シーズンの佐々岡カープで生まれた記録を振り返っていく。

 今回は、高卒2年目の右腕・田中法彦がプロ登板を飾った10月29日のヤクルト戦(マツダスタジアム)を振り返る。

10月29日のヤクルト戦。高卒2年目の田中法彦選手がプロ初登板。相手打線を三者凡退に抑える投球で首脳陣の期待に応えた。

◆二軍で守護神を務めた期待のリリーフ投手が一軍デビュー

 プロ2年目のシーズン、田中法彦には“クローザー”の役割を与えられた。二軍とはいえ、試合を締めくくる大事なポジション。田中は、強靭な体格から繰り出すキレの良い直球、僅差でも動じない心の強さを武器に結果を残していった。

「今年は特にストレートの質を意識しています。シュート回転する球が多かったのですが、徐々にきれいな回転の球を投げられるようになってきました」

 投球フォームも微調整した。投球の際に体が開きがちになる癖を修正することで、直球、変化球ともに精度が向上した。また、ストレートと共に今季の田中のピッチングを支えたのが、カットボールとスプリットという2つの“新球種”だ。

「カットボールは今季に入って投げ始め、空振りが取れる球になってきました。またスプリットは6月頃から投げ始めて、こちらも手応えのある球になってきました」

 二軍の守護神として活躍し、10月15日までに25試合に登板。1勝1敗12セーブ、防御率1.73という安定した成績を残したことが評価され、翌16日に初の一軍昇格が決まった。

 そして迎えた10月29日のヤクルト戦。一軍昇格から約2週間経ったこの日、ようやく一軍初登板のチャンスが巡ってきた。3点ビハインドのまま試合は進み、場面は6回。2番手投手として田中法彦がマツダスタジアムのマウンドに立った。

 先頭の廣岡大志を2球でレフトフライに打ち取ると、続く古賀優大には、5球すべてストレートの真っ向勝負を挑みレフトフライ。代打・長岡秀樹は2球で簡単に追い込むもそこから粘られフルカウントに。しかし根負けせず、しっかりとゾーンに投げ込み、7球目の直球でショートゴロに打ち取った。

 記念すべきデビュー戦は、1イニング14球を投げて無失点。持ち味の直球主体のピッチングでヤクルト打線を三者凡退に抑え、上々のデビューを果たし、確かな手応えもつかんだ。

 ここ数年のカープは、アドゥワ誠や遠藤淳志など、高卒投手の活躍が目立つだけに、田中には、躍進を遂げた先輩投手に続くことが期待される。今季の貴重な経験を糧に、背番号57はプロでの歩みを加速させていく。