今季のドラフトでは育成選手を含め、全7選手を指名したカープ。今季10勝をマークするなど大活躍を見せた森下暢仁の一本釣りに成功した昨年に続き、今ドラフトも社会人ナンバーワン投手と注目されていた栗林良吏(トヨタ自動車)の単独1位指名に成功した。

 ここでは、長年アマチュア球界の好投手たちの球を、実際にブルペンで受けた上で選手を取材し続ける“流しのブルペンキャッチャー”こと安倍昌彦氏が、カープが指名した全7選手について触れていく。今回は、ドラフト1位指名・栗林良吏の特徴について語ってもらった。

社会人ナンバーワン投手という評価で、カープにドラフト1位指名された栗林良吏投手。

◆社会人で覚えたカーブが成長要因 1年目からの二桁勝利を期待

 まず今年のカープのドラフトの総評を述べるならば、“100点満点”だと言えるのではないでしょうか。本来ドラフトというものは、12球団の思惑が複雑に絡み合っているだけに、2位以下でどのような選手が獲得できるかは当日に蓋を開けてみなければ分からない部分があります。そういう意味で今年のカープのドラフトは栗林良吏投手という即戦力投手を単独指名できた時点で、現時点では“成功”したと言えると思います。

 他球団の動向も踏まえながら考えてみると、カープも早川隆久投手(早大・楽天ドラフト1位)の獲得を検討していなかったわけではないでしょうが、今季の結果を考えると、カープが即戦力投手を獲得しなければならないことは明らかです。そうなると、『重複のリスクを負ってまで早川を指名するのは……』という考えに至ったのかもしれません。ただ、カープスカウトの動向を見ていた限り、だいぶ早い段階から栗林の1位指名を検討していたようですし、まさにカープの思惑通りに単独指名をすることができました。

 栗林投手については、もちろん1年目から先発ローテーションとして二桁勝利を期待したいですし、カープとしてもそのために獲得した投手です。私も実際に球を受けた経験があるのですが“大人な投手”だなという印象を受けました。私がキャッチャーミットを構えた場所から球がほとんど外れませんでした。具体的な数字を言うと、外れたのは30球中4球のみです。

 また、この時とても印象的だったのが、この4球という数字をとても悔しがっていた点です。初対面の捕手に対して当然投げづらさはあったはずですし、どんな投手でも普通は球が荒れます。そうした状況でもなお、結果が出なかったことに対する悔しさを露わにする点で、投手らしい負けん気の強さ、そして向上心の高さを感じました。

 また栗林投手は〝マウンドを広く使える投手〟でもあります。プレートの上に立っているだけではなく、ロージンを触りプレートを外したり、捕手からの球を受けるためにマウンドを降りたり、グラウンドの中心に位置するマウンド上を自分のペースで動きながら試合をつくることができます。ときたまマウンドで緊張のあまり動きが硬くなっている投手を見かけますが、栗林投手の場合マウンド上で快適そうに過ごしていた姿が印象的です。

 そして栗林投手の直球は、非常にきれいな回転をしています。擬音を使って表現するなら“ドーン”ではなく“シュッ”というスピンのかかった球です。こういう球質のストレートは打者がバットを縦に入れた時に飛距離が出てしまうため、ある意味リスクのある球でもあるのですが、空振りを取れる球ですしプロの世界でも十分通用する球だと思います。

 栗林投手はトヨタ自動車に入って大きく実力を伸ばした投手ですが、入社してからカーブを覚えたことが結果を残せるようになった大きな要因だと見ています。大学時代は大きく曲がるスライダーを投げていたのですが、社会人ではその球が通用しないと見るやいなや、スパッとその球を捨てたのです。そして縦割りのカーブを身につけたことで投手としてのレベルを上げました。

 現在投げているそのカーブの精度は文句なしに素晴らしいのですが、私が驚くのはそれまで自分の武器でもあったスライダーを見限ったその変わり身の早さです。投球に対して非常に柔軟な思考の持ち主なのだと思いますし、プロでもそうした姿勢は必ず役に立つはずです。

 マウンドでの堂々たる姿勢、そして闘志を前面に押し出す投球スタイルは今のカープ投手陣に少ないタイプだと見ています。そういう意味でもカープの投手陣に刺激を与えられる存在だと思いますし、今季大活躍した森下暢仁(2019年ドラフト1位)と共に、ぜひとも先発ローテーションの軸としての活躍を期待したいです。