◆シンプルに考え開き直ること

 現役生活で考え抜いた一番の代打の秘訣とは、“開き直り”です。レギュラーは4回打席に立って、2本ないし1本のヒットを求められているのに対し、代打は1回の打席で1本のヒットが求められます。

 そこで考えたのは、いま自分の打率が3割だろうが1割だろうが、その打席に立った瞬間は、“代打として成功するか、しないか”という二択しかないということです。つまり、チームから求められる最低限の仕事をする確率は5割ある、という風に考えていました。

 もちろん、それは失敗する確率も5割あるということですが、そこで自分を追い込むような余計なことは考えず、切り捨てるようにしていました。自分が不安になったり、緊張したりする要因をとにかく省き、シンプルに考えていく。これが私がたどり着いたひとつの考えです。

 極端な話「打ったら自分のおかげ」、「ダメだったら自分を起用した監督のせい」と、そのぐらいの割り切りを持って打席に臨むようにしていました。そこでは配球を読む、ということなんてしません。スタメンのときはデータを見て打席に向かいますが、代打になってからはデータを気にしないようにしました。

 たとえば90%の確率でスライダーを投げてくる投手がいたとします。ですが、残りの10%は他の球種を投げてくる可能性があるわけです。あくまでもデータはデータ、残りの10%がきたときに「ごめんなさい」では仕事になりません。そこで信じていたのは自分の感覚でした。

 そのかわり、ストライクでも四隅の厳しいところにくる球については、自分のバットが止まっただけでOKとしていました。それと同時に甘いコースにきたストレートに対して振り遅れるなんてことは間違ってもあってはいけないことだと肝に命じていました。