◆孫ほど歳が離れた選手たちに浸透する「古葉イズム」

 そして古葉は誰よりも負けることが嫌いな人である。普段は柔和な表情が印象的だが、「ユニフォームを着たら人が変わりますよ。厳しくなりますし、声を荒げることもあります」と隆明氏は明かす。

 孫ほど歳が離れているとはいえ、野球への情熱はまだ少しも薄れていない。

「カープ時代に一緒にやっていた選手は激しいと思っていたかもしれませんが、そういう気持ちは今も変わりませんよ。プロだから、アマチュアだからという考えは私にはありません。野球は、自分のできることをやらないと。やる以上は全員で優勝できるようにという思いでやっています」

 手だけでなく足も出ることがあったほど厳しかったと言われるカープ監督時代。当時を知る教え子からは、「カープのときと同じことをしたら問題になりますよ」と揶揄されたと言う。しかし大学では、もちろん手を挙げることなどはない。古葉が技術向上よりも重点を置いたのは意識改革だった。

 アマチュア球界、特に社会へ巣立つ直前の学び場である大学では、ただ単に試合に勝つためだけでなく、「社会に出たときにしっかり対応できるように。野球を通して何かを感じとって欲しい」という願いがある。

 基本的なことではあるが、部員や学校に迷惑をかけないといったことなど部内で規則を作って、守れなかったときには罰も与えるなど徹底していった。そしてプレーでは、エラーや失敗は許すも、緩慢や怠慢なプレーにはその都度厳しく叱責する。

 そして次第に古葉イズムは浸透し、練習や試合などに訪れる人たちから選手の姿勢を見て、「気持ちいいね」という言葉が多く聞かれるようになっていった。また、古葉が監督に就任したことで部員も急増。同大には入部資格などなく、来るもの拒まず。監督就任が公になった当時の新入生にあたる2年生は70名、そして1年生も50名入部した(4年生20名、3年生30名の計170名)。

 ただ、『古葉竹識』というネームバリューだけではない。

 「野球に対しての取り組み方がそう伝わっているのだと思います。どういう風に感じてくれるかはとても大事なこと。そのように感じてくれているということは、(意識改革が)浸透しているということかな」

 わずか1年半での成果にやや照れたように笑うが、古葉イズムが浸透したことで同大野球部の評判も高くなったといえる。そして厳しいだけでなく、坂戸市にあるグラウンドには1年生が上級生と冗談を言い合うような楽しい空気もある。